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フェミニストのための理論書 ジュディス・バトラー『ジェンダー・トラブル』を読もう

はじめに

ジュディス・バトラーの『ジェンダー・トラブル:フェミニズムとアイデンティティの撹乱』は、1990年に出版された画期的な著書であり、フェミニズム理論、クィア理論、ジェンダー研究に大きな影響を与えました。

本書は、従来の「男」と「女」という二元論的なジェンダー概念を批判的に分析し、ジェンダーが社会的・文化的規範に基づいて構築される「パフォーマンス」であると論じています。後にバトラーは『触発する言葉』(1997)で、これを「パフォーマティヴィティー」や「エージェンシー」という言葉でこれらの問題を解決するために発展させていきました。私はバトラーの原書を読んだことがあるのですが、あまりに悪文すぎて投げ出してしまいました。名訳者で知られる竹村和子氏は、おそらく相当な苦労をされたと思います。

このたび新装版が出版されたので、この機会に紹介してみようと思います!

1.ジェンダーとは何か?

バトラーは、ジェンダーを単なる生物学的な性差ではなく、社会的な規範に基づいて「演じる」パフォーマンスであると捉えます。私たちは、幼い頃から「男らしさ」「女らしさ」といったジェンダー規範を教えられ、それに沿った言動や服装をすることで、ジェンダーアイデンティティを「演じる」のです。これは皆さんも普段経験されていることだと思われます。多くの女性が生きづらい世の中であると感じるのは、単なる経済格差だけではなく、この無意味な行為自体に痛み(被傷性)をともなうからである、と、バトラーは述べています。

2.ジェンダー規範の問題点

バトラーは、固定的なジェンダー規範が、ジェンダーマイノリティやトランスジェンダーの人々を排除したり、抑圧したりしている問題を指摘します。また、ジェンダー規範が、性差別やジェンダー暴力の原因となっていることも論じています。

3.パフォーマンスとしてのジェンダー

バトラーは、ジェンダーが固定的なものではなく、常に変化し、再構築されるものであることを強調します。本来、私たちはジェンダー規範に縛られることなく、自分自身のジェンダーアイデンティティを自由に表現することができますし、そうあるべきだと思いませんか? 男女平等の社会はそこから始まるのです。

4.フェミニズムと『ジェンダー・トラブル』

『ジェンダー・トラブル』は、従来のフェミニズム理論を批判的に再検討し、新たなフェミニズムの可能性を提示しています。バトラーは、ジェンダー平等を実現するためには、固定的なジェンダー概念を解体し、多様なジェンダーアイデンティティを認めることが重要であると主張しています。

主要な論点

  • ジェンダーとは何か?:ジェンダーは単なる生物学的な性差ではなく、社会的な規範に基づいて「演じる」パフォーマンス

  • ジェンダー規範の問題点:固定的なジェンダー規範が、ジェンダーマイノリティやトランスジェンダーの人々を排除したり、抑圧している

  • パフォーマンスとしてのジェンダー:ジェンダーは固定的なものではなく、常に変化し、再構築されるもの

  • フェミニズムと『ジェンダー・トラブル: 本書は、従来のフェミニズム理論を批判的に再検討し、新たなフェミニズムの可能性を提示した

【影響と批判について】

『ジェンダー・トラブル』は、出版以来、フェミニズム理論、クィア理論、ジェンダー研究に大きな影響を与えてきました。しかし、バトラーの議論は、あまりにもラディカルであるとして批判されることもあります。

しかし、ラディカル・フェミニズムくらい行かないと男性優位の社会は今後も続くでしょう。また、ポストモダン・フェミニズムとして批判されることもあります。

これは知識人の言葉遊びにになっているという批判が大勢だと思います。ですが、これは多くのポストモダンに対して批判されがちな言説であり、フェミニズム批判とは無関係であると私自身は考えています。

1. 従来の主体性概念への批判

バトラーは、従来の主体性概念が「固定的な自我」に基づいていると批判します。この自我は、生まれながらに存在し、理性的に行動し、自由な意志を持つと仮定されます。しかし、バトラーは、このような自我は「社会的・文化的規範によって構築された幻想」であると主張します。

2. パフォーマティヴィティとしての主体性

バトラーは、主体性を「パフォーマティヴィティ」として捉えます。パフォーマティヴィティは「行為遂行性」という難しい言葉で説明されていますが、わかりやすく説明すると「行為を通してアイデンティティを繰り返し作り上げていくプロセス」です。

つまり、私たちは生まれながらに固定的な自我を持つのではなく、ジェンダー、人種、階級などの様々な規範に基づいて、日々の言動や行動を通して「自分」を演じているのです。

3. エージェンシーの再定義

バトラーは、エージェンシーを単なる「主体による自由な意志」ではなく、「規範の枠組みの中で主体性を再構築していく力」と捉え直します。

つまり、私たちは固定的な自我によってではなく、規範との葛藤や抵抗を通して、新たな主体性を創り出していくことができるのです。

『ジェンダー・トラブル』を読み解くためのヒント

本書はたしかに難解な理論書ですが、丁寧に読み解けば、ジェンダーについて新たな視点を得ることができます。ジェンダーに関する他の著作や論文も併せて読むことで、より深い理解が得られることでしょう。

ワークショップやセミナーに参加するなど、他のフェミニストや研究者と議論することも有効です。フェミニズムやジェンダーに関心を持つ人々と交流することで「仲間意識」を育むことができます。互いの経験や考えを共有することで「連帯感」が生まれ、モチベーションを維持するのにも役立ちます。

もちろん、SNSの拡散力を用いることも有効です。ツイッター(現 X)の、ハッシュタグ機能の「♯mee too」や「♯ku too」が盛んになったことで、大きな変革が起きたことは記憶に新しいと思います。

おわりに

『ジェンダー・トラブル』は、フェミニズムに関心を持つすべての人にとって必読の書です。 本書は、ジェンダーについて新たな視点を与え、よりインクルーシブで平等な社会を実現するための指針を示してくれます。



【編集後記】
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