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わたしの愛読書 ヘルマン・ヘッセ『車輪の下』を紹介

ヘルマン・ヘッセの小説『車輪の下』(原題:Unterm Rad)は、1906年に発表されたドイツの小説です。才能ある少年ハンス・ギーベンラートが、周囲の期待に応えようと努力するあまり、精神的に追い詰められていく様子を描いています。

ヘルマン・ヘッセとは

ドイツ生まれのスイス人作家です。優れた小説と詩によって知られ、20世紀前半のドイツ文学を代表するひとりに数えられます。南ドイツの風物のなかで、穏やかな人間の生き方を描いた作品群が多いことが特徴です。
あまり知られてはいませんが、後年のヘッセは風景や蝶などの水彩画を描きはじめ、自身の絵を添えた詩文集も刊行しています。ヘッセの小説を彷彿するような画才も賞賛されており、画集も発売されています。

主な作品群

  • 1904年『ペーター・カーメンツィント』 (Peter Camenzind)

  • 1906年『車輪の下』 (Unterm Rad)

  • 1910年『ゲルトルート』 (Gertrud)

  • 1914年『ロスハルデ』 (Rosshalde)

  • 1919年『デミアン』 (Demian)

  • 1922年『シッダールタ』 (Siddhartha)

  • 1927年『荒野の狼』 (Der Steppenwolf)

  • 1930年『ナルチスとゴルトムント』 (Narziß und Goldmund)

  • 1932年『春の嵐』 (Die Morgenlandfahrt)

  • 1943年『ガラス玉演戯』 (Das Glasperlenspiel)

  • 不明1910~20『青春は美わし』(Jugend ist schön)

受賞歴

1946年ノーベル文学賞受賞

ヘッセの作品は、世界中で愛読されており、特に青春期の若者に人気があります。彼の作品は、人生の意味、個人の自由、自己実現など、普遍的なテーマを扱っています。

今日はそのなかの私のお気に入り、車輪の下を紹介します。


あらすじ

ハンスは、幼い頃から優等生で、将来を嘱望されていました。しかし、厳しい規律と詰め込み教育が行われる神学校に入学すると、次第に心身共に疲弊していきます。神学校の冷酷な教師や、友人ヘルマン・ハイルナーという自由奔放で反抗的な同級生との出会い、彼との交流を通じて、ハンスは自分の抑圧された感情や考えに気づくようになります。ハンスは精神的に追い詰められ、 最終的には神学校を飛び出し、ついには病気にかかり、学校を中退して故郷に戻ることになります。帰郷後も彼は以前のような学業への意欲を取り戻すことができず、次第に孤立していきます。最終的には、彼の体と精神は限界を迎え、悲劇的な結末を迎えることになります。

主要なテーマ

  • 個人の自由と社会の圧力 個人の自由と社会の圧力の間で葛藤するハンスの姿を描いています。周囲の期待に応えようと努力するハンスは、次第に自分自身を見失っていく

  • 教育と階級の問題 学校教育やそれらがもたらす階級社会の問題点を批判。ハンスに過度に期待をよせる親や厳格に接する進学校の教師、優しいフライクおじさんが大人側の人物として対置される。詰め込み教育と厳しい規律によって、ハンスのような才能ある少年たちが精神的に追い詰められていく様子が描かれる

  • 青春の苦悩 青春時代の苦悩を繊細に描出。ハンスは、アイデンティティの確立、恋愛、将来への不安など、様々な悩みを抱える

作品の特徴

  • 美しい自然描写:本作は、水彩画のように美しい自然描写が特徴となっている。冒頭の魚釣りやうさぎ小屋の描写等、色鮮やかな自然描写によって、彼の心情が表現されている

  • 繊細な心理描写:本作は、繊細な心理描写が特徴となっている。ハンスの心の葛藤や苦悩は、丁寧に汲み取られる

  • 象徴的な表現:本作は、象徴的な表現が用いられる。車輪とはつまり、社会の生産関係を回していく動力であり、ハンスの精神を轢殺し、最終的に川底へ沈めてしまった悲運の歯車といえる

「車輪の下」は、若者が社会の期待や制度にどのように対処するのか、そしてその過程でどのように自己を見失うことがあるのかを深く探求した作品です。ヘッセの鋭い洞察と感受性が光るこの小説は、教育や社会のあり方について考えさせられる重要な1冊です。ドイツ階級社会の通弊を浮き彫りにし、ハイルナーとの少年愛なども描かれています。少年愛の部分は、竹宮惠子『風と木の唄』や萩尾望都『ポーの一族』に影響を与えました。
有名な村上春樹『ノルウェイの森』で主人公のワタナベが恋人ミドリの書店を訪ねる場面でも、この作品が選定されていたように思います。


読んで後悔しない有名な本なので、ぜひ手に取ってみてください!


【編集後記】
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