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「スイート・マイホーム」神津凛子
本書は、第13回小説現代長編新人賞受賞作。ジャンルはホラー小説というのかミステリーというのか。いずれにせよ、あまりこのジャンルは読まないのだが、2023年に映画化されたということで、手に取ってみた。
長野に住む夫婦と乳児ひとりの三人家族が今はアパート暮らしだが、念願のマイホームを購入することになる。この新居を舞台に、奇妙な、悲惨な出来事が起きていく、というのが本書の概要である。
著者のインタ
「静かな爆弾」吉田修一
今回は、吉田修一の少し古い作品を取り上げる。本書は2008年の発行で、2006年に中央公論に連載されたものをまとめたものである。
主人公は、30をちょっと過ぎたあたりの「俺」。仕事はドキュメンタリーの制作をしていたが、バラエティ担当に異動になり、そのことを不本意に思っているらしい。そして、今もドキュメンタリー制作に関わり続けている。社内的には「兼業」ということになっているようだが、ある種“放置
「真珠とダイヤモンド」桐野夏生
本書は2021年から2022年に「サンデー毎日」に連載されたものである。ちょうどコロナ禍の時期であり、週刊誌連載であれば同時並行的にコロナを機に改めてあらわになる社会の不可思議なものを浮き彫りにする小説を書くこともできたであろうが、本書は30年ちょっと前の、いわゆるバブル経済のピーク前後が舞台となっている。
主人公は1986年に証券会社に入社した同期二人の女性だ。同期といっても、一人は高卒、も
「差別の教室」藤原章生
「いじめや無視は差別である」
本書の冒頭部分にあるこの記述を見て、え、そうなの?と思った。さらに読み進めていくと、他にも著者の「差別」という言葉の使い方、意味の持たせ方になんとなく違和感を覚える箇所が、何度か出てきた。「差別」ということに対する自分の理解が他の人と(著者と)意外と異なっていることに気づいた。
著者は自分の体験を紹介して「これは差別だった」「自分は明らかに〇〇を差別していた」な
「楡家の人びと 第二・三部」北杜夫
第一部では、院長・基一郎の死に私は不意を突かれ、そのあっけない終わり方がますます第二部以降の楡一家、楡病院の行方に対する私の関心を高めたのだった。
そのような期待を持って第二部を読み進めた。予想としては基一郎に代わって徹吉が院長となり、あるいはそこに龍子も存在感をさらに増して、新たな楡病院の物語が語られていくというものだった。しかし、そうではなかった。つまり、本書は病院の物語というものではなく
「楡家の人びと 第一部」北杜夫
本書は著者・北杜夫の一家の物語をモデルにした、3部に渡る大作である。当初は全部を読み終えての感想を記そうと思っていたのだが、第一部だけでも非常に読み応えがあったので、第一部単独で書くことにした。
舞台は東京・青山の病院で、実際に著者の祖父が明治末に開業したものである。関東大震災で大きな被害に遭い、さらには翌年、火事で全焼してしまったというが、この事実は小説においても踏襲されており、その後、本書
「起死回生東スポ餃子の奇跡」岡田五知信
本書はスポーツ新聞の「東スポ」が餃子の開発・販売を始めるに至った経緯とその取り組みを、中心人物へのインタビューを交えて紹介したものだ。
2021年10月に、まずは業務用として販売を開始し、このユニークな――というか、なぜ?と誰もが言ってしまいそうな――取り組みをテレビやその他メディアが取り上げ話題になったという。しかし、私は全く知らなかった。もしや早々に撤退しているのではと思い、ネットを見てみ
「それから」夏目漱石
「それから」を読むのも、もう三度目か四度目になる。今まで読んでいて気づかなかったというか、記憶に残っていなかったことがあり、改めて楽しく読めた。
代助の三千代への愛情がここまではっきりと書かれていたことは、新鮮だった。三千代に告白して、すっきりとしている状況にある代助は、次に家族に伝えなければいけない、そして平岡にも、とある。どうしてこの順番なのか? 家族よりも平岡に伝えるのが先ではないのか?