見出し画像

「起死回生東スポ餃子の奇跡」岡田五知信

 本書はスポーツ新聞の「東スポ」が餃子の開発・販売を始めるに至った経緯とその取り組みを、中心人物へのインタビューを交えて紹介したものだ。
 2021年10月に、まずは業務用として販売を開始し、このユニークな――というか、なぜ?と誰もが言ってしまいそうな――取り組みをテレビやその他メディアが取り上げ話題になったという。しかし、私は全く知らなかった。もしや早々に撤退しているのではと思い、ネットを見てみたら、東スポWebでしっかりと販売していた。一般向けの販売は2022年7月から開始したとのこと。
 餃子の販売以外にも、東スポの会社として(東京スポーツ新聞社)の実態を本書で初めて知り、ちょっと驚かされた点もあった。ひとつは年収の高さである。90年代では入社2年目社員の年収が1,000万円を超えていたとのこと。全国紙でもなく、スポーツ紙の中でも夕刊紙というポジションなので、ここまで良いとは(失礼ながら)意外だった。(現在は、新聞販売が低迷しており、給与水準も下がっているという)
 もうひとつは、つい最近になって初めて人事部署(人事課)ができたということ。経営再建のためにコンサルティング会社から受けたアドバイスということだが、そんな会社あるんだと驚いた。
 高い給料を社員に支払い、人事部署はなくても、長い間企業経営が成立していた東スポ。もしかしたら、このような会社は他にもあるのかもしれない。そう考えると、本書は東スポ餃子の面白さを描いているだけでなく、これまでの日本企業の不思議さと、いよいよツケが回ってきた今後の立て直しをどうしていくか、ということを考える絶好のケーススタディを紹介してくれているともいえる。
 東スポ餃子に続く第二弾として「からあげ」、第三弾として「ポテトチップ」がこれまで販売されたというが、「食品」という捉え方にとどまっていると間もなくネタ切れという課題に直面するのだろう。これまでスポーツ紙で培ってきた東スポの良さと、東スポ餃子に共通するもの、貫いているものは、東スポ餃子のプロジェクトメンバーの一人である戸田商事・鈴木副社長の言葉にあるように、いかに「面白がってくれる」かどうかということだと思う。これまでのところ、消費者だけでなく、食品会社等の協力先もこの取り組みを利益面だけでなく、面白さ・楽しさを共有して参加しているようである。鈴木副社長は「新橋的空間」ということもイメージとして挙げているが、食品展開に固執せず、このような視点を持っているのが良いような気がする。
 著者も例に挙げているが、創業時の基幹事業を社名にも反映させている企業が、現在では他事業が主力となっていて社名と実態にギャップがある、という例が多々見られる。また、例えば三井住友銀行が「『かつては、銀行と呼ばれていた。』そんな未来が、もうそこまでやってきているのかもしれません。(2019年新卒採用サイト)」と言ったこともある。

 Apple ComputerがAppleに、富士写真フイルムが富士フイルムに社名変更したように、東スポも現在の社名「株式会社東京スポーツ新聞社」から「新聞」の文字が消える時が来るかもしれない。そして、その時にどのような事業構成になっているのか。大学やブランドコンサルティング会社などで議論してもらい、その結果をいろいろ教えてもらいたいと思った。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?