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「それから」夏目漱石

 「それから」を読むのも、もう三度目か四度目になる。今まで読んでいて気づかなかったというか、記憶に残っていなかったことがあり、改めて楽しく読めた。
 代助の三千代への愛情がここまではっきりと書かれていたことは、新鮮だった。三千代に告白して、すっきりとしている状況にある代助は、次に家族に伝えなければいけない、そして平岡にも、とある。どうしてこの順番なのか? 家族よりも平岡に伝えるのが先ではないのか? これは平岡がどう思おうが三千代は自分と一緒になるという確信からくるものなのか?
 とはいえ、父親に会っても三千代とのことは口に出すことができず、縁談を断るだけで終わってしまう。そして、結局は先に平岡に三千代を呉れと伝えることになったのだが、この後の平岡の言動には驚かされた。平岡が三千代を渡すことを認めながらも病気が治るまでという条件で代助と会わせなくしたことや、代助の実家に手紙を出したことなど、自分には思いつかないことで、はっとした。平岡の思考回路を把握できないまま小説が終わってしまった感じだ。
 代助が三千代に告白してからの展開はエキサイティングだった。三人の三角関係は、その成り立ちと性質を改めて見ると、結構ドラマチックな設定となっていることに気づく。でも、それが代助の飄々とした態度を通すことで、そこに気づかずにうっかり読み進めてしまってきたようだ。これまではそんな読み方を繰り返してきた気がした。
 代助が父や兄に話す前に、平岡が手紙を送ってしまったことで、父や兄の堪忍袋の緒を切ってしまったわけだが、代助が先に話したところで同じ結果だったかもしれない。でももう少しは穏やかな父や兄の反応に着地したのでは、とも思う。
 父や兄からはもう会わないと言われ、生活費援助も断たれ、平岡からは絶好を言い渡され、三千代とも会うことができない。夏目漱石は随分と代助に試練を与える結末にしたなあと思った。赤の世界が回転するラストシーンの心境に、ようやく少し近づいた気がした。


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