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「ゴリラ裁判の日」須藤古都離

 本書は2022年メフィスト賞(講談社)受賞作。といってもメフィスト賞の存在は知らず、タイトルに惹かれて読んでみた。
 読む前は、ゴリラが受ける裁判という設定を通して、日頃私たちが持っている固定観念、偏見といったものをあぶり出していくのだろうと思い、その理屈のやり取りが裁判所の中で激しく展開されていく、いわゆる法廷ものの小説だと思っていた。
 展開に関して、その予想は外れた。本書の各章にはタイトルがついていないので、自分なりに内容を項目立ててみたのが下記の通りなのだが、
裁判その1
1.原告ローズ
カメルーンその1
2.アイザックとの出会い
3.カリムとの別れ
4.エサウの死
5.エンジニア・テッド
6.ロイド上院議員
7.CMデビュー
アメリカ篇
8.隔離
9.ゴリラパーク
10.事件
11.プロレス
裁判その2
12.上訴
13.証人尋問
14.最終弁論
15.人間宣言
カメルーンその2
16.余波
と、このように、裁判のやり取りは16章中5章分と約1/3に過ぎない。多くは、人間とコミュニケーションをとれるようになったローズの半生を語る物語となっている。こうして改めて見ると、そもそも人であることの意味とか他者への意識とかを読者に考えさせるにあたり、法廷ものにしなかったことが功を奏しているのかなと感じた。理屈で塗り固めるようなことを避けて、情緒的に読者の気持ちに届く――特に15章にクライマックスを迎える――ことにつながったといえそうだ。


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