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「ただの人にならない『定年の壁』のこわしかた」田中靖浩

 現在、公認会計士として会計経営分野のコンサルティングをしている著者は、最初は外資系コンサルティング会社で働いていた。20代半ばで身体を壊して長期入院し、その後も何度も入退院を繰り返してしまうようになり、会社を辞めることになったとのこと。独立後しばらくは事務所を大きくしようと試みたが、人を雇う重圧に耐えきれなかったため、「雇われない」だけでなく「雇わない」ということも選択したという点は一般人――私のような――にとってリアルなポイントだ。
 本書は、このような経緯で若くしてフリーランスとなった著者が、定年後も働くこと、それも雇われないで働くというフリーランスのスタイルを提唱しているものだ。
 定年を迎えた、もしくは迎えつつある人に向けたメッセージ(第1章「ただの人にならない『定年後』のすすめ」)と合わせて、現役世代に向けて将来を見据えたメッセージ(第2章「現役世代のための『フリーランス思考』のすすめ」)も用意されている。(プラス「第3章 定年後は『助けられ力』がものを言う」という構成)
 この中から、部分的にではあるが、印象に残ったものをとりあげてみた。

「フリーランスとして『サービス業』がおススメ」
 自分自身を売り物とするサービス業にはほとんど初期投資がかからないから、というのがその理由。そのことが「小さく仕事を始める」「好きな仕事を好きな時間だけ働く」ためのハードルを低くするというのは納得感ある。

「失敗を誰かのせいにしがちな人は、フリーランスに向かない」
 著者は、フランチャイズ・オーナーに挑戦した人が「本部が何もしてくれなかった(から失敗した)」と愚痴る例を挙げて、そういう人はフリーランスに向いていないとしているが、その反対ではないかと思った。何でも人のせいにして考えてしまう人は、組織内でのストレスや言い訳が多くなると思う。だからこそ、すべて自分の責任となるフリーランスの方が向いているのではないだろうか。

「フリーランスにはやりたいからやるというB動機(Being)が必要」
 生活のため義務的に働くD動機(Deficit)に支配されているのが会社員であり、そこからマインドセットをBモードに変えないとフリーランスへ転身できないと指摘する。まあそうだよなと思いつつ、好きなこと・やりたいことを仕事として成立させるのは、実際には大変なことである。それで思い出したのが「活動の原動力となる3つの輪」というものだ。

〈「まちへのラブレター」(乾久美子・山崎亮)より〉

「まちへのラブレター」は市民参加型のコミュニティデザインについての本だが、その地域の住民が自発的に参加するための考え方として山崎氏が紹介している。これを参考に、「地域」を「市場」「世の中」などと置き換え、自分のスキルと欲求を分析するといいかもしれない。

「自分で自分をほめる大切さ」
 フリーランスに限らないことだが、能力が高まっていくほど周囲は当然のことと思う傾向が強まってきてしまう。継続していくことこそ価値が高いので、そのモチベーションを維持するためにも自分でほめるということが大切だという。そうしないと、周りの人に称賛を要求するという嫌な奴になってしまう。

「『逃げること』もBモード強化に活きる」
 Bモード=自分のやりたいこと、がわからないというところで停滞してしまう人は、自分は何が嫌なのかを考え、それを長所・売り物になるように転換するのがいいと言っている。我慢する、克服するという姿勢も否定はしないが、固執しすぎても弊害が大きい。「逃げる」という選択肢も有効に使いたいものだ。


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