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「スイート・マイホーム」神津凛子

 本書は、第13回小説現代長編新人賞受賞作。ジャンルはホラー小説というのかミステリーというのか。いずれにせよ、あまりこのジャンルは読まないのだが、2023年に映画化されたということで、手に取ってみた。
 長野に住む夫婦と乳児ひとりの三人家族が今はアパート暮らしだが、念願のマイホームを購入することになる。この新居を舞台に、奇妙な、悲惨な出来事が起きていく、というのが本書の概要である。
 著者のインタビュー記事を読むと、事前にプロットは作らずに思いのままに書き進めていったとのこと。それでいてこの仕上がり――様々な展開を盛り込んで、無理やり感はなく、まどろっこしさもない――は、本書は著者にとってまだ三作目ということも含めて、見事というところだろう。
 また、登場人物の誰にも感情移入せずに書き、それ故に本書ができあがったとも言っている。ホラー小説を書こうと思っていたわけでもないというが、結果的には「ここまでおぞましい作品に接したのは初めてだ(伊集院 静)」「読みながら私も本気でおそろしくなった(角田光代)」と賞の選考委員たちが口にするまでのホラー感溢れるものとなったのだ。
 特にこの印象を強く与えるものが最後の終わり方であろう。選考委員の石田衣良の「最後の1ページ、ここまでやるか」という選評の言葉にあるように、多くの読者も――そして私も――同じ思いを持ったと思う。そして、好き嫌いは結構分かれると思う。私は、とても嫌な気分になった。ミステリー好きな人は、あるいはこういったものこそが爽快な刺激となるのかもしれない。また、私のように読者が嫌な気分になって終わるのが、著者の狙いかもしれない。
 著者自身は「自然とここへ辿り着いた」「書いているときは気づかなかったが読み返した時に自分でも『ひどい』と思った」とインタビューに答えている。
 私としては、この最後の部分は不要だったのではないかと感じた。主としては内容が自分の趣味ではないということだが、もう一点としては何か取ってつけた感が感じられたのだ。
 本書は、全般的に夫が主人公として話が進む。最後の部分は妻と会った夫が、妻の行動に心が凍るほどの驚きと恐ろしさに見舞われるという形で終わる。プロットは立てずに思いのままに書き進めていった著者の気持ちが、なぜこのような救いのない恐ろしさにまで行き着いたのか。著者は誰にも感情移入せずに書いたと語っているが、夫を中心に語られてきたこのドラマが終わるにあたり、果たしてその妻の心情はどうだったのかということを――著者自身が妻であり母であるという同じ立場の人間として――思いを寄せてみたくなったのではないか、と思った。それで最後にこのワンシーンを挿入し、本書を締めくくったのではないか。そして、さらには冒頭のプロローグ的な部分をつけた(「彼女が狂ってゆく」で本書は始まる。当然、この時点で彼女とは誰のことなのか読者はわからない)。そうすることで、全体的には夫を中心として進むドラマに対して、妻の存在を少し印づけておきたかったのではないか。そんな気がした。


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