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雑文ラジオポトフ

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今田の雑文です。
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#今田

説明をせず立っていてもいい湯気

説明をせず立っていてもいい湯気

 わたしもそうなのだが、ほかほかのごはんが苦手という人がたまにいる。変わり者、もしくは変わり者と思われたがっている者、と思われるのが嫌なのであまり主張しない。が、確実に一定数いる。知人のおばあさんがそうだと聞いたときは、会ったことのないそのおばあさんに「ぼくのほんとうのおばあさんになってくれませんか」と懇願したい気分になった。結局変わり者か、詐欺師に思われそうだ。

 母方も父方も、祖父母らはわた

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「職場」を見に行く 第1回(全5回)

「職場」を見に行く 第1回(全5回)

第1回 光さす畑いま住んでいる部屋に引っ越してからなので、まずはここ一年ほどの話になる。ある日スマートフォンでグーグルマップを見ていると、それまで行ったこともない場所に「職場」という青いピンが立っているのに気がついた。それは、どう見てもわたしの職場ではなかった。

畑。航空写真で見てもストリートビューで見ても同じ、知らない畑だった。たしかに誰かの職場かもしれないが、わたしの職場ではない。アカウント

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「職場」を見に行く 第2回(全5回)

「職場」を見に行く 第2回(全5回)

第2回 職場を革命する者その朝、わたしはお仕着せのモーニングルーティーンから解放され、ゼロからの自由意志で「職場」に行くことを決意した。

いくら多様化が叫ばれようと、出勤には朝のイメージがある。おとといも朝。きのうも朝。きょうもあしたもあさっても朝。毎朝毎朝。永遠に続く運命の輪を断ち切るような決意で、わたしは宣言した。

よし、きょうは「職場」を見に行こう!

新鮮だった。その新鮮さを軸に遠心力

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「職場」を見に行く 第3回(全5回)

「職場」を見に行く 第3回(全5回)

第3回 だから僕はそれ(出勤)をするのさ東村山駅とはちがい、ふだん本川越駅を利用することはまったくなかった。が、ややこしいことに数日前たまたま「つまずく本屋ホォル」という本屋を訪れるために利用したばかりでもあった(そのへんのことは前回書きました)。

「ホォル」店主との短い会話を思い出す。

店主「きょうはなにかのついでに?」
今田「いや、この店ねらいうちで来ました」
店主「ありがとうございます~

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「職場」を見に行く 第4回(全5回)

「職場」を見に行く 第4回(全5回)

第4回 職場の果て正午に家を出て、もう夕方になっていた。

「出勤」も終わりが近づき、短い時間でしたが、密度の高いかけがえのない体験ができたと思います。

と書くのはあまりにかんたんだ。

もともと嘘八百を並べるのに抵抗を感じない犯罪予備軍タイプだから、「出勤」を終えて自宅でパソコンに向かっているいま、今回の体験を通じて感じた「出勤」の有用性を家族や友人や職場の仲間に広めたいという気持ちでいっぱい

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「職場」を見に行く 第5回(全5回)

「職場」を見に行く 第5回(全5回)

第5回 僕の存在証明いつまでだらだら書いてるんだ、と思ったので今回で終わりです。なにを書いてたんだっけ?と振り返ってみると、

ある日、グーグルマップ上で見ず知らずの畑に「職場」というピンを立てたバカ(演:今田)が、実際にここに行こう!と思い立ち(第1回)、その一連を「出勤」と呼ぶと決めて出発し(第2回)、電車とバスと徒歩でじりじりじりとバカを進行させ(第3回)、いざたどり着いたら誰かが畑を耕して

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言葉にできない好き

言葉にできない好き

 どんな傾向の映画が好きなのかいまだに自分でもよくわからない。

 なんでも好きなわけじゃない。好きにパターンが無いみたいなかんじ。ベスト映画を訊かれたら即答で『ロボコップ』と言うが、説明をつけやすくて角が立たないからそう言っているかもしれない。そういえばどこかのタイミングで「これからベスト映画は『ロボコップ』にしよう!」と決めたことがあるような気もする。

 なんとなくおぼろげに「アイドル映画」

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トムと無

トムと無

 自宅の鍵をつけているキーホルダーはトムとジェリーのラバーのやつだ。ちょっとでかい。鍵じたいの何倍もある。ボーリングのピンになったトムが何人(何本)か整列しているが、そういえばジェリーがいない。やはりちょっとでかい。ポケットの中でずっとかさばっている。それで思い始める。

 なんでキーホルダーが要るんだ?

 鍵だけでいいような気がしてきた。いや、失くすのかもな。鍵だけだと。あとまあ、鍵が何本もあ

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鋭い当たり

鋭い当たり

 夕方のテレビのニュースの見出しで驚いた。

「大谷が、鋭い当たりを飛ばしました」

 それだけだった。野球が「鋭い当たりかどうかを競うスポーツ」だったらいいが、たしかそうではない。となると、ルールとはちがう部分が観客や視聴者を惹きつけているのだろうか。彼らは「鋭い当たりかどうか」を知りたがっている。

 ここで野球白帯のわたしでもさすがに思い出すのが、大谷がバッターとしてだけでなくピッチャーとし

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グッチ裕三の伊丹っぽさ

グッチ裕三の伊丹っぽさ

 きょうも昔の日記からほぼ転載。

 夢で伊丹十三の新作を観た。

 あるシーンでヤクザたちがキャンプ場で撃ち合いになり、そこにグッチ裕三が出ていて、なぜか「伊丹十三っぽいキャスティングだなあ」と思った。祐三は伊丹十三作品に出演したことはないと思う。では、なぜ祐三のキャスティングに伊丹っぽさを感じたのだろう。

 祐三といえば冬樹だ。後者のほうが俳優としての活動は多い。しかし伊丹っぽさなら祐三の圧

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シャワーを浴びすぎたとき

シャワーを浴びすぎたとき

 かなり小声で言いたいが、わたしには「外出ぎりぎりになってシャワーを浴びて遅刻する」という癖がある。遅刻は悪だ。許されない。わたし自身も遅刻していいとは思っていない。

 だからすぐに謝る。人として当然の態度だ。

 状況や相手との関係性にもよるが、たとえば、正直に「すみません、シャワーを浴びていました」と告げる。場合によっては「シャワーを浴びすぎました」と言うこともある。しかし、これらでは単純に

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ゴーヤチャンプルー・メディテーション

ゴーヤチャンプルー・メディテーション

 2年前のものと思っていた日記が1年前のものだった。きょうもそこから書き写します。

 ゴーヤチャンプルーを作った。人生で2度目だと思うが、1度目にあったことはぜんぶ忘れていた。ネットでレシピを調べ、ようやく卵を使うことを思い出す。ゴーヤ、豆腐、豚肉などが炒め合わされたのち、最後に卵。結果、ほぼ「卵とじ」のような按配になった。

 レシピには、鍋に卵液を流し込み「そのまま10秒待つ」とあった。この

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映画『ハウス・オブ・グッチ』のこと

映画『ハウス・オブ・グッチ』のこと

 サー・リドリー・スコットにわたしが抱く印象は「おしゃべり大好きおじさん」だ。もちろん「映像の魔術師」であり、だからこそ、いろんな物語をいろんな語り口で見せてくれる楽しい紙芝居屋さん的な印象がある。

 今回も「語り」にノリノリで嬉しくなった。べつに小気味のいい音楽で物語をばんばん進めていくわけではなく(それはスコセッシ)、たとえば夜の怪しいパーティーシーンの直後にぽん、と昼の街中のシーンが入り、

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ラベルレス時代

ラベルレス時代

 誰も知らない新しい時代に突入した。ペットボトル飲料のラベルがない時代、ラベルレス時代だ。水も緑茶もラベルレス。資源の節約になるし、分別の手間もなくなる。

 焼肉のタレはどうだ。

 厳密にはびんだが、これがペットボトルになれば当然ラベルレスのえじきである。どの商品もどろどろした茶色。ラベルレスになればもう見分けはつかない。手元にある「エバラ黄金の味・中辛」のボトルをぐるっと見る。なぜ手元にある

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