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雑文ラジオポトフ

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今田の雑文です。
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#記憶

おおらかにいて自転車はかげを停め

おおらかにいて自転車はかげを停め

シリーズ・現代川柳と短文 073
(写真でラジオポトフ川柳161) 

 人は記憶喪失になっても自転車の乗り方は忘れないという。ボールの投げ方や水泳もたぶんそうだろう。ざっくり言って「体で覚えた記憶」は忘れないのだ。しかし、自分の名前は忘れてしまう。体で覚えていないせいだ。なるほど。ところで、体で名前を覚えるとはどういうことだろう。たぶん、タトゥーや焼きごてといったかんたんな話ではない。そもそも「

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赤ちゃんがはじめて空をさわる日に

赤ちゃんがはじめて空をさわる日に

シリーズ・現代川柳と短文 028
(写真でラジオポトフ川柳116)

 病院に近い叔母の家の二階で妹用のベビーベッドを組み立てている。これから生まれてくる妹はわたしより4歳下になる。つまりわたしは4歳。じっさい組み立てているのは父親で、わたしはその横で説明書の図を見ている。母親は出産のため入院していてそこにはいない。わたしは図を指差してここはこうじゃないかここはああじゃないかとなにか言っている。繰

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包丁のことはいいから先にいけ

包丁のことはいいから先にいけ

シリーズ・現代川柳と短文 026
(写真でラジオポトフ川柳114)

 包丁を研いだらすごく切れるようになった、と同居人。キッチンには通販で買った白い砥石と、すごく切れるようになった包丁で切られたトマト。促されるまま包丁を手に取り新しいトマトに刃を入れるとすとんと切れた。こんなに切れるのか。べつにこれまで包丁の切れ味に不満はなかったが、こんなに切れるようになってしまったいま、「ぜんぜん切れない包丁

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メリットはデメリットだしヒグマだし

メリットはデメリットだしヒグマだし

シリーズ・現代川柳と短文 004
(写真でラジオポトフ川柳092)

 パンダとクマのちがいが思い出せない。見た目は似ているがぜんぜん別物。そう聞いたことがある気がする。シマウマとウマもそうだし、ホッキョクグマとクマもそんな感じだった………気がするが、やはり思い出せない。正直なところ、前段の《見た目は似ているが》という部分も怪しい。写真で見るとけっこうちがうな、と思ったことがある気もするのだが、い

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ここからは本気でパンを司る

ここからは本気でパンを司る

シリーズ・現代川柳と短文 001
(写真でラジオポトフ川柳089)

 すこし前のことを思い出した。かつて、勤め先が入っていた某オフィスビルの1階に高いパン屋があり、そこで昼食のサンドイッチを買うのが日課だった時期のことだ。来る日も来る日もサンドイッチを食べながら、「ん? こんな経験、前にもしたことあるな〜」とよく思い出すことがあった。《こんな経験》とは、つまり来る日も来る日もサンドイッチを食べて

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ひとつぶのお米が街にやってきた

ひとつぶのお米が街にやってきた

 現代川柳と400字雑文 その76

 過去の自分に勇気づけられることがある。もう20年ちかく前、いまも付き合いのある大学時代の後輩のセーターの袖口に、柿の種が付いていたことがあった(ちょうど柿の種にハマってた時期だったらしい)。それを指摘したわたしは、顔を赤らめる後輩にこう言ったという。「いや、好きならいいと思うよ」なんだそれは。おもしろいじゃん。かつて書いた作品(脚本)を読み返し、まあ悪くない

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何度聞きなおしてもオチが鬼太郎

何度聞きなおしてもオチが鬼太郎

 現代川柳と400字雑文 その15

 つい話を盛ってしまう。というより、伝わりやすくするために細部を簡略化してしまう。あるていどは話術の範疇として許容されるだろうが、たとえば他人に映画をすすめる際、97分の作品を90分と言いきるのはやや微妙かもしれない。嘘をついているような気もするからだ。ところで、この話の「他人」とは実は自分のことだ。要するに、「記憶力に自信がないから、97分の映画を観たのに、

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