Sam

時々、家族のことや、ジェンダーのこと、気になることを書いていきます。

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記事一覧

夜中の本屋さん

大きな満月の夜。トラオさんは、「今夜、本屋さんに、一緒に行く?」とタルボットの声をかけた。 「うん、行こうかな」とタルボット。 トラオさんと一緒に30分くらい、道…

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2か月前

深夜メシ3

仕事のあとに深夜に帰ると、晩ごはんをスキップして寝てしまいたくなる。そんなときにも何とか作れる深夜メニュー。 帰宅して手を洗ったら、タマネギ、ジャガイモ、ニンジ…

Sam
2か月前

ヤマボウシ

トラオさんの家の庭のすみっこには、ヤマボウシがある。白いガクが王冠のように木の上に乗って、夕日が当たるとキラキラ光る。 タルボットは、縁側に腰掛けて、読書中。今…

Sam
1年前
2

深夜メシ2

深夜に帰る時には、料理はしたくない。 コンビニで弁当的なものを調達していると、体が重くなる。 手濡らさずで、手作り風な味を食べて、元気になるにはどうするか? そん…

Sam
1年前
1

深夜メシ1

帰りが遅くなると、何も作りたくなくなる。料理はもともと、好きではない。 しかし、コンビニですぐ食べられるものを買い続けると、何やら体がスッキリしない。 私の住む地…

Sam
1年前
2

寝るほどある時間

最近、お客様が少ないんだよ、とトラオさんが言い出した。 タルボットは、前からこんな感じだったけど?と答えてみる。 金曜の夜なのにさ、誰も現れないんだ、どうしたら…

Sam
1年前
1

歩数計

私のスマホの歩数計は、ちょっといい加減だ。乗り物に乗っていないのに、40分も乗っていたように記録されることがある。 だがおおむね、歩いた時には、歩いたように記録さ…

Sam
1年前
1

夕日の短さについて

平野で育った。西に行けば、海。見えるほど近くではないけれど、とにかく、建物がない場所に行けば、夏の夕日は、最後まで見られた。緯度が高かったので、ますます、夏休み…

Sam
1年前
3

引っ越しの日

11月初旬の連休、ついに両親の引っ越しをすることになった。 8月、9月に一度ずつ、10月に二回親の家に戻り、連休前日に休暇を取って、戻った。 昨年から取り組んできた片…

Sam
1年前
1

延々と

他人のことをとやかく言うのは、極力やめようと思っている。誤字脱字をわざわざ指摘するのも、仕事上必要なとき以外はしない。 だが、どうしても気になる間違いがある。「…

Sam
1年前

歯を磨く順番について

いつの頃からか、歯を磨く順番を固定した。右下内側、外側、左下内側、外側、噛み合わせ部、前下内側、外側……という具合である。そのうえで、細かく磨きにくいところを個…

Sam
1年前
2

帰省カウントダウン

お盆休みの前後と秋の連休を何度か利用して、帰省している。 理由は、親の引越準備。来月頭には、私の住む県に両親が移住する。 引越先が決まり、引越の日取りと業者が決…

Sam
1年前

3着のワンピース

実家の押し入れの上から、子供服の箱が見つかった。引越しを見据えて、この夏、整理している最中のことだ。 中には、生なりクレープのシンプルなワンピース、真っ白なフリ…

Sam
1年前
4

コスモス

「タルボット、おそとであそぼうよ」テコの声だ。 「あら。いらっしゃいテコくん。少し、涼んでいけば?美味しいミルクがあるよ。」とトラオさん。 テコは、薄茶色の子犬…

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1年前

コーヒーのにおい

トラオさんのお店には、ときどきお客さんが来る。 お客さんは、コーヒーを頼んでから、お店の本棚を眺める。 本棚には、世界の猫の本が並んでいる。黒、白、茶トラ、ミケ…

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1年前
1

タルボット

タルボットは、ねこである。 タルボットの毛並みは短くて、黒くてツヤツヤ。 そして、タルボットは本を読むのが大好き。 縁側に腰かけて、メガネをかけて、後ろ足の先を…

Sam
2年前

夜中の本屋さん

大きな満月の夜。トラオさんは、「今夜、本屋さんに、一緒に行く?」とタルボットの声をかけた。
「うん、行こうかな」とタルボット。

トラオさんと一緒に30分くらい、道を右に曲がり、左に曲がり、坂を降りて、橋を渡って、少し坂をのぼると、夜中の本屋さんに着く。小さな木戸をトラオさんが開けるので、タルボットは足元をすり抜けて、中に入る。
庭にはたくさんの敷物が敷かれて、その上に本が並べられている。色とりど

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深夜メシ3

仕事のあとに深夜に帰ると、晩ごはんをスキップして寝てしまいたくなる。そんなときにも何とか作れる深夜メニュー。

帰宅して手を洗ったら、タマネギ、ジャガイモ、ニンジン、キャベツなど、ありあわせの野菜を大きく切る。キャベツは、四半分を3つに切るくらいの適当さ。
ベーコンの固まりとか、ソーセージとかも冷凍庫から取り出す。
鍋にオリーブオイルを入れて、全部をさっと炒めるふりをしたら、さっさと湯を入れて、ベ

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ヤマボウシ

トラオさんの家の庭のすみっこには、ヤマボウシがある。白いガクが王冠のように木の上に乗って、夕日が当たるとキラキラ光る。

タルボットは、縁側に腰掛けて、読書中。今日の本のタイトルは、『むべなるかな』だ。作者は富田安江。女流作家の自伝的小説である。

タルボット、それ、面白いの?とトラオさんが聞く。ネコには、むつかしい、とタルボットは答える。ただ、夜遅く帰ってきて、おひつに残っていたわずかなご飯をか

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深夜メシ2

深夜に帰る時には、料理はしたくない。
コンビニで弁当的なものを調達していると、体が重くなる。
手濡らさずで、手作り風な味を食べて、元気になるにはどうするか?

そんな深夜メシ、というより深夜丼の二つ目は、食べたらおいなりさん丼である。

【事前準備】
(時間のあるときに)油揚げを煮ておく。
油揚げの湯抜きをする。
鍋に油揚げを入れる。
水とめんつゆを中心に調味すれば、簡単。やる気のあるときでも、水

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深夜メシ1

帰りが遅くなると、何も作りたくなくなる。料理はもともと、好きではない。
しかし、コンビニですぐ食べられるものを買い続けると、何やら体がスッキリしない。
私の住む地方では、深夜に生鮮食品を買えるスーパーはない。さて、どうするか?

むかし、『さるりょう』という本が流行ったことがあった。サルでもできる料理。もうダメだ、一歩も動けん、金もない、というときでも美味しくたべられるレシピ集。内容は覚えていない

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寝るほどある時間

最近、お客様が少ないんだよ、とトラオさんが言い出した。
タルボットは、前からこんな感じだったけど?と答えてみる。

金曜の夜なのにさ、誰も現れないんだ、どうしたら、来てくれるかな、タルボット?とトラオさんは続ける。

トラオさんは、地味な古い家に住んでいる。そのなかの一ヵ所に、お客様がやってくる。お客様には、タルボットの嫌いな、苦いにおいのコーヒーを出す。他には、いろんなスパイスをたっぷり混ぜて、

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歩数計

私のスマホの歩数計は、ちょっといい加減だ。乗り物に乗っていないのに、40分も乗っていたように記録されることがある。
だがおおむね、歩いた時には、歩いたように記録されているらしい。
目標として設定されている7000歩を超えると、教えてくれる。別に私が設定した目標でもないが、まあまあ、歩いたんだなと思う。

仕事中はスマホを持ち歩かないので、どんなにクタクタになっても、記録が伸びない日もある。

三が

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夕日の短さについて

平野で育った。西に行けば、海。見えるほど近くではないけれど、とにかく、建物がない場所に行けば、夏の夕日は、最後まで見られた。緯度が高かったので、ますます、夏休みの間、晴れている日は、夕日の色を味わっていた。

転じて、現在住んでいるのは、盆地である。西には、アルプス連峰が控えている。冬の夕日は、4時にポトリと山に隠れる。夏でさえ、雲と稜線で、太陽とは早目にさよならをする。

秋のお彼岸を過ぎても、

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引っ越しの日

11月初旬の連休、ついに両親の引っ越しをすることになった。

8月、9月に一度ずつ、10月に二回親の家に戻り、連休前日に休暇を取って、戻った。

昨年から取り組んできた片付けだが、終わることはなかった。書類や布類が積まれた山はかなり残った。
それでも、和室2つ分の服、布、寝具、本を箱詰めすると、さすがに布類が多すぎたことに、母は気づいてくれた。

業者さんの来る前夜は、4時まで寝られなかった。物が

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延々と

他人のことをとやかく言うのは、極力やめようと思っている。誤字脱字をわざわざ指摘するのも、仕事上必要なとき以外はしない。

だが、どうしても気になる間違いがある。「延々と」のはずが、「永遠と」と書かれているときだ。

延々と続く話。延々と続く説教。

と書くべきところを、「永遠と」と書く人が、結構いる。「永遠」であるかのように感じるからなのだろう。

なんでこんなに気になるのか。

理由は、いくつか

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歯を磨く順番について

いつの頃からか、歯を磨く順番を固定した。右下内側、外側、左下内側、外側、噛み合わせ部、前下内側、外側……という具合である。そのうえで、細かく磨きにくいところを個別に磨く。

磨き忘れると、一側面すべて汚いので、嫌でもわかる。

先日母が、「私、あっちを磨いたり、こっちを磨いたりするのよね」と言い出した。「順番にじゃなく?」「うん、順番にじゃなく、あっちにいったり、こっちに来たりするの。」

「する

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帰省カウントダウン

お盆休みの前後と秋の連休を何度か利用して、帰省している。

理由は、親の引越準備。来月頭には、私の住む県に両親が移住する。

引越先が決まり、引越の日取りと業者が決まった。

にわかに、必要なものを箱詰めする。というより、まずは箱を措くスペースを確保する。

カビやら染みやらの出たものを捨てるが、それよりも、必要なものを選り出す作業。意外と、近い将来シーツやバスタオルが大量に必要になるかもね、とい

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3着のワンピース

実家の押し入れの上から、子供服の箱が見つかった。引越しを見据えて、この夏、整理している最中のことだ。

中には、生なりクレープのシンプルなワンピース、真っ白なフリルとレースたっぷりのワンピース、そしてピンク色のフリルのワンピース。

その夏、母は一学期の終業式が終わって帰ってきた私と兄を連れて、実家に戻った。あるいは終業式まで待たなかったかも知れない。

離婚したいという母に、戻ってこい、何とかな

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コスモス

「タルボット、おそとであそぼうよ」テコの声だ。

「あら。いらっしゃいテコくん。少し、涼んでいけば?美味しいミルクがあるよ。」とトラオさん。

テコは、薄茶色の子犬だ。タルボットと縁側にならんで、ミルクを飲む。お外の日の光がまぶしいけど、ここは風が吹いて、いい気持ち。

「なにしてあそぶ?」とタルボット。「かくれんぼしよう。はらっぱに、むらさきいろとしろのおはながさいたよ」とテコが言う。

「ごち

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コーヒーのにおい

トラオさんのお店には、ときどきお客さんが来る。

お客さんは、コーヒーを頼んでから、お店の本棚を眺める。

本棚には、世界の猫の本が並んでいる。黒、白、茶トラ、ミケ、錆色。

猫は、トルコのじゅうたん屋さんにもいるし、ブダペストの漁夫の砦にもいるし、マチュピチュにもいる。タルボットは、世界中の仲間に、本で会うのが楽しみ。でも、トラオさんは、「旅に行きたいねえ、タルボット」と言って、タルボットを撫で

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タルボット

タルボットは、ねこである。
タルボットの毛並みは短くて、黒くてツヤツヤ。

そして、タルボットは本を読むのが大好き。

縁側に腰かけて、メガネをかけて、後ろ足の先を組んで、本を読む。特に好きなのは、詩集。

「こがね色の水面
ぼくらが滑り出す船の下を走る
光る鱗、鱗、鱗」

タルボットは考える。鱗の持ち主の魚は、どんなお味だろう?船から前足をのばしたら、つかめるかしら?

ねえ、タルボット?と話し

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