コーヒーのにおい

トラオさんのお店には、ときどきお客さんが来る。

お客さんは、コーヒーを頼んでから、お店の本棚を眺める。

本棚には、世界の猫の本が並んでいる。黒、白、茶トラ、ミケ、錆色。

猫は、トルコのじゅうたん屋さんにもいるし、ブダペストの漁夫の砦にもいるし、マチュピチュにもいる。タルボットは、世界中の仲間に、本で会うのが楽しみ。でも、トラオさんは、「旅に行きたいねえ、タルボット」と言って、タルボットを撫でてくる。まったく、何も、わかっていない。

トラオさんのコーヒーは、おいしいらしい。タルボットには、苦いにおい。だから、タルボットは、コーヒーを頼んだお客さんには近づかない。

だけどほんとは、ときどき、ちょっと世界の仲間を紹介したいな、と思う。



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