Sam

時々、家族のことや、ジェンダーのこと、気になることを書いていきます。

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最近の記事

夜中の本屋さん

大きな満月の夜。トラオさんは、「今夜、本屋さんに、一緒に行く?」とタルボットの声をかけた。 「うん、行こうかな」とタルボット。 トラオさんと一緒に30分くらい、道を右に曲がり、左に曲がり、坂を降りて、橋を渡って、少し坂をのぼると、夜中の本屋さんに着く。小さな木戸をトラオさんが開けるので、タルボットは足元をすり抜けて、中に入る。 庭にはたくさんの敷物が敷かれて、その上に本が並べられている。色とりどりの光が、たくさん並んで吊り下げられているから、タルボットには、ちょっと眩しい。

    • 深夜メシ3

      仕事のあとに深夜に帰ると、晩ごはんをスキップして寝てしまいたくなる。そんなときにも何とか作れる深夜メニュー。 帰宅して手を洗ったら、タマネギ、ジャガイモ、ニンジン、キャベツなど、ありあわせの野菜を大きく切る。キャベツは、四半分を3つに切るくらいの適当さ。 ベーコンの固まりとか、ソーセージとかも冷凍庫から取り出す。 鍋にオリーブオイルを入れて、全部をさっと炒めるふりをしたら、さっさと湯を入れて、ベイリーフと好みのハーブとコンソメをひとかけ入れて、中火で煮たったら弱火にする。火

      • ヤマボウシ

        トラオさんの家の庭のすみっこには、ヤマボウシがある。白いガクが王冠のように木の上に乗って、夕日が当たるとキラキラ光る。 タルボットは、縁側に腰掛けて、読書中。今日の本のタイトルは、『むべなるかな』だ。作者は富田安江。女流作家の自伝的小説である。 タルボット、それ、面白いの?とトラオさんが聞く。ネコには、むつかしい、とタルボットは答える。ただ、夜遅く帰ってきて、おひつに残っていたわずかなご飯をかきとって、カツブシをかけて、お茶漬けを食べるシーンが、好きなのだ。 トラオさん

        • 深夜メシ2

          深夜に帰る時には、料理はしたくない。 コンビニで弁当的なものを調達していると、体が重くなる。 手濡らさずで、手作り風な味を食べて、元気になるにはどうするか? そんな深夜メシ、というより深夜丼の二つ目は、食べたらおいなりさん丼である。 【事前準備】 (時間のあるときに)油揚げを煮ておく。 油揚げの湯抜きをする。 鍋に油揚げを入れる。 水とめんつゆを中心に調味すれば、簡単。やる気のあるときでも、水と昆布と鰹節で出汁の代わりにしつつ、酒味醂醤油砂糖を適当にいれたら、バランスはめ

        夜中の本屋さん

          深夜メシ1

          帰りが遅くなると、何も作りたくなくなる。料理はもともと、好きではない。 しかし、コンビニですぐ食べられるものを買い続けると、何やら体がスッキリしない。 私の住む地方では、深夜に生鮮食品を買えるスーパーはない。さて、どうするか? むかし、『さるりょう』という本が流行ったことがあった。サルでもできる料理。もうダメだ、一歩も動けん、金もない、というときでも美味しくたべられるレシピ集。内容は覚えていないけど、すみっこに可愛いサルのパラパラまんががあったことだけは覚えている。大体、深

          深夜メシ1

          寝るほどある時間

          最近、お客様が少ないんだよ、とトラオさんが言い出した。 タルボットは、前からこんな感じだったけど?と答えてみる。 金曜の夜なのにさ、誰も現れないんだ、どうしたら、来てくれるかな、タルボット?とトラオさんは続ける。 トラオさんは、地味な古い家に住んでいる。そのなかの一ヵ所に、お客様がやってくる。お客様には、タルボットの嫌いな、苦いにおいのコーヒーを出す。他には、いろんなスパイスをたっぷり混ぜて、最後に刻んだトマトをのせたカレーがある。 トラオさんが売っているのは、時間。本

          寝るほどある時間

          歩数計

          私のスマホの歩数計は、ちょっといい加減だ。乗り物に乗っていないのに、40分も乗っていたように記録されることがある。 だがおおむね、歩いた時には、歩いたように記録されているらしい。 目標として設定されている7000歩を超えると、教えてくれる。別に私が設定した目標でもないが、まあまあ、歩いたんだなと思う。 仕事中はスマホを持ち歩かないので、どんなにクタクタになっても、記録が伸びない日もある。 三が日。連続で7,000歩を越えた。失敗した。休めなかった。 一日、夫と富士山の見

          歩数計

          夕日の短さについて

          平野で育った。西に行けば、海。見えるほど近くではないけれど、とにかく、建物がない場所に行けば、夏の夕日は、最後まで見られた。緯度が高かったので、ますます、夏休みの間、晴れている日は、夕日の色を味わっていた。 転じて、現在住んでいるのは、盆地である。西には、アルプス連峰が控えている。冬の夕日は、4時にポトリと山に隠れる。夏でさえ、雲と稜線で、太陽とは早目にさよならをする。 秋のお彼岸を過ぎても、半袖が続く。気温は夏のようでも、日は短くなる。 冬至を過ぎて、春の日差しになって

          夕日の短さについて

          引っ越しの日

          11月初旬の連休、ついに両親の引っ越しをすることになった。 8月、9月に一度ずつ、10月に二回親の家に戻り、連休前日に休暇を取って、戻った。 昨年から取り組んできた片付けだが、終わることはなかった。書類や布類が積まれた山はかなり残った。 それでも、和室2つ分の服、布、寝具、本を箱詰めすると、さすがに布類が多すぎたことに、母は気づいてくれた。 業者さんの来る前夜は、4時まで寝られなかった。物が多すぎて、段ボールを置く場所は6畳ぶんくらいしか確保できない。そこに、あらゆる箱

          引っ越しの日

          延々と

          他人のことをとやかく言うのは、極力やめようと思っている。誤字脱字をわざわざ指摘するのも、仕事上必要なとき以外はしない。 だが、どうしても気になる間違いがある。「延々と」のはずが、「永遠と」と書かれているときだ。 延々と続く話。延々と続く説教。 と書くべきところを、「永遠と」と書く人が、結構いる。「永遠」であるかのように感じるからなのだろう。 なんでこんなに気になるのか。 理由は、いくつかある。 といっても、文法上の理屈については、すでにたくさんの記事が世の中にあふ

          延々と

          歯を磨く順番について

          いつの頃からか、歯を磨く順番を固定した。右下内側、外側、左下内側、外側、噛み合わせ部、前下内側、外側……という具合である。そのうえで、細かく磨きにくいところを個別に磨く。 磨き忘れると、一側面すべて汚いので、嫌でもわかる。 先日母が、「私、あっちを磨いたり、こっちを磨いたりするのよね」と言い出した。「順番にじゃなく?」「うん、順番にじゃなく、あっちにいったり、こっちに来たりするの。」 「するの」じゃないだろう。なんでそんな、分かりにくく非効率的なことをするのか? 「だ

          歯を磨く順番について

          帰省カウントダウン

          お盆休みの前後と秋の連休を何度か利用して、帰省している。 理由は、親の引越準備。来月頭には、私の住む県に両親が移住する。 引越先が決まり、引越の日取りと業者が決まった。 にわかに、必要なものを箱詰めする。というより、まずは箱を措くスペースを確保する。 カビやら染みやらの出たものを捨てるが、それよりも、必要なものを選り出す作業。意外と、近い将来シーツやバスタオルが大量に必要になるかもね、という話になったりする。ようやく、箱の分類ができて、要るものを放り込んでいってねと言

          帰省カウントダウン

          3着のワンピース

          実家の押し入れの上から、子供服の箱が見つかった。引越しを見据えて、この夏、整理している最中のことだ。 中には、生なりクレープのシンプルなワンピース、真っ白なフリルとレースたっぷりのワンピース、そしてピンク色のフリルのワンピース。 その夏、母は一学期の終業式が終わって帰ってきた私と兄を連れて、実家に戻った。あるいは終業式まで待たなかったかも知れない。 離婚したいという母に、戻ってこい、何とかなる、と祖父は言ったらしい。最後の給料袋の封を切らずに、航空チケット代として、彼は

          3着のワンピース

          コスモス

          「タルボット、おそとであそぼうよ」テコの声だ。 「あら。いらっしゃいテコくん。少し、涼んでいけば?美味しいミルクがあるよ。」とトラオさん。 テコは、薄茶色の子犬だ。タルボットと縁側にならんで、ミルクを飲む。お外の日の光がまぶしいけど、ここは風が吹いて、いい気持ち。 「なにしてあそぶ?」とタルボット。「かくれんぼしよう。はらっぱに、むらさきいろとしろのおはながさいたよ」とテコが言う。 「ごちそうさま。いってきます」とトラオさんに言って、テコとタルボットは庭に飛び降りる。

          コスモス

          コーヒーのにおい

          トラオさんのお店には、ときどきお客さんが来る。 お客さんは、コーヒーを頼んでから、お店の本棚を眺める。 本棚には、世界の猫の本が並んでいる。黒、白、茶トラ、ミケ、錆色。 猫は、トルコのじゅうたん屋さんにもいるし、ブダペストの漁夫の砦にもいるし、マチュピチュにもいる。タルボットは、世界中の仲間に、本で会うのが楽しみ。でも、トラオさんは、「旅に行きたいねえ、タルボット」と言って、タルボットを撫でてくる。まったく、何も、わかっていない。 トラオさんのコーヒーは、おいしいらし

          コーヒーのにおい

          タルボット

          タルボットは、ねこである。 タルボットの毛並みは短くて、黒くてツヤツヤ。 そして、タルボットは本を読むのが大好き。 縁側に腰かけて、メガネをかけて、後ろ足の先を組んで、本を読む。特に好きなのは、詩集。 「こがね色の水面 ぼくらが滑り出す船の下を走る 光る鱗、鱗、鱗」 タルボットは考える。鱗の持ち主の魚は、どんなお味だろう?船から前足をのばしたら、つかめるかしら? ねえ、タルボット?と話しかけてくるのは、トラオさん。タルボットの名付け親だ。字も教えてくれた。「こんど、

          タルボット