寝るほどある時間

最近、お客様が少ないんだよ、とトラオさんが言い出した。
タルボットは、前からこんな感じだったけど?と答えてみる。

金曜の夜なのにさ、誰も現れないんだ、どうしたら、来てくれるかな、タルボット?とトラオさんは続ける。

トラオさんは、地味な古い家に住んでいる。そのなかの一ヵ所に、お客様がやってくる。お客様には、タルボットの嫌いな、苦いにおいのコーヒーを出す。他には、いろんなスパイスをたっぷり混ぜて、最後に刻んだトマトをのせたカレーがある。

トラオさんが売っているのは、時間。本と時間を、セットにして売っている。ゆっくり過ごしてほしいからね、とトラオさん。

ゆっくり過ごすのに、お金を払う人がいるんだ。ネコには、時間なんか、寝るほどあるのに、とタルボットは思う。

カラカラカラ、と引き戸の音。タルボットは、寝たふりを決め込む。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?