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創作

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作り物です。
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ゾウ

雨にさらされ泥だらけ

凹凸が目立つ荒れた地面を見下ろす

ここはどこの風景なのだろう

幾度もフラッシュバックしていた

眠れば時折り現れる場所

そんなこともすっかり忘れ

呆けたように生きていた私は

寝ぼけ眼でリモコンを操作する

浮かんだのはアフリカゾウの巨体

遅さはイコール優しさであり

そのスピードに憧れを抱く

太い足が泥を踏む

凹凸の地面が出来上がる

情景

情景

モンドリアンのドレスがよく似合う女性と
その他数人の男ばかりの団体が
談笑しながらこちらにやってくる

最上階のビップルーム
吹き抜けから覗き込めば温室が見下ろせる
取り付けられた食卓にはご馳走が並んでる

エスカレーターを降りてやってきた一人の男性は
プクプク肥えたスーツ姿のおじさん
男ばかりの団体は入れ違うようにエスカレーターを降りていく

ガラス天井から陽がまっすぐ降りてくる
その丁度照らさ

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あの頃

あの頃

嘲笑。
 私たちは全て似ている。それはとても良いことだ。
 鏡が三十とちょっと。でも、私とあなたは同じじゃない。
 同化。圧力。無知。勘違い。
 手を繋いで笑っている。仲が良いのはとても良いことだ。
 たかが知れた友情の理由。
 大嫌い、大好き、生理的に無理。
 輪からはじき出された鏡。
 寄りあつまるマス。
 何も知らない空虚な瞳。
 ストレス社会だから諦めなさい。
 私はそこに己を見る。
 悲

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潜んでいた

潜んでいた

ひさしからぽつぽつと流れ落ちる雨粒

そんな感じで放たれる言葉をいちいち拾ってノートに書き起こす

義務付けられた労働はこんなところから始まっている

虚ろな教師の目

砂埃を立てないように静まり返った生徒たち

みんなといるのに独り

独りなのに幸福なふりをする

若さゆえの残酷さなんてつゆしらず

本能に乗っ取られた思考は

彼らを崖っぷちへと運ぶばかり

私は息を潜める

誰にも遅れを取らな

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懐古

懐古

ぱたりと僕の腕からはがれ落ちた君。
一夏を謳歌した命。
初めて羽を広げた時も、
あの女の子に振られた時も、
運命のあの子と出会った時も、
僕はみんな知ってる。
君は僕を信頼してくれて、
いつでもその細い腕を、僕にしがみつかせてた。
君の歌声は力強くて、
毎日元気をもらってた。
相棒よ、ありがとう。

思ってもみなかった。
こんなにストンと力が抜けていくなんて。
初めて寝そべって空を見上げる。
あの

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Mind scape

唇を触らして。

声の聞こえない懇願。

君の細い指が空を弄る。

掌が開く様は、芽吹きと似ていた。

僕はただそれに見惚れていた。

足はもう動かなかった。

凍てつく空は美しかった。

目の前で蝶が果てた。

柔らかな風が吹いて、彼女を優しく包んだ。

僕はただ満ち足りていた。

君の指が僕の唇を、そっと冷やしてくれたから。

別れが最期とは限らない

別れが最期とは限らない

あの人は、縁がない人。

そういうのって、わかる。直感で。
そしてそれは大体当たってる。いつだってそうだった。

卒業式の日。
わたしはあの人を見ていた。もう一生目にすることはないだろう、制服姿の細い背中を。

3年前、初めて入った高校の教室の机が高くて、足元をふわふわさせていた。 廊下側の一番後ろ席に座って教室を見回していたら、初めてあの人を見つけた。瞬間息が止まった。窓際の中間くらいに座

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はじめての小さな罪

「そこにね、おばけいるよ」

そう言って6歳の私は襖を指差した。

「あそこに、白い服を来た女の人がいる」

「本当に見えるんかい?」

おばあちゃんが目を丸くして私の方を見る。

「うん」

「やだね、前も霊感あるっていう友達が遊びに来てさ、この家は霊がうじゃうじゃいるって言ったんさ。特にあそこの、襖から縁側に続く道は霊の通り道なんだと」

おばあちゃんが私から私の母に視線を向けて言った。母は嫌

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口紅にまつわる小噺

口紅にまつわる小噺

私は電車に揺られていた。 平日の午後であった。日本中で労働の緊張が張り詰めたこの時間、電車の中は外の世界など素知らぬ顔の平穏な海中のようにのどかな空間だった。座席はまばらに埋まっているだけで、人々は手元のスマホを見つめたり、電車の心地よいリズムにまかせてうたた寝をしたりしていた。
私の目の前には若い女の人が座っていた。ショートヘアで薄手のカーディガンを羽織った地味な見た目であるのに、その背筋だけは

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嘘と真実の狭間で

嘘と真実の狭間で

テルは斗真の嘘を見破る能力を持っていた。能力というよりは、斗真という人間のみに発揮される鋭い観察眼というべきかもしれない。
例えば、常に乾いていて薄いのに人より赤い唇から吐き出される呼気からアルコールの香りが一切しないのに、声のトーンが普段よりほんのすこし明るく上ずっているように感じられる時。
テル以外の、他の人から見ればなんの変わりもないように見える些細な変化だった。
でも、テルにとって音は色彩

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はりねずみは大樹で一休み

はりねずみは大樹で一休み

全身の針を逆立てて、怖いものを追い払おうとする。そうすることでしか自分の弱さを守れない。

自分に正直になることが、大の苦手だった。一番針が突き立てられているのは自分の心なのに、覆い隠して取り繕って、全然気にしてないふりをする。でも、わたしは人を見くびっていた。人は、わたしが思っているより優しく賢いので、わたしのちぐはぐさをあっという間に見抜いてしまう。気づいてないのはわたしだけ。

貴方なんて

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創作:顔面均等法

創作:顔面均等法

 この法律が規定されたのは、現代のちょうど今頃のこと。ただし、パラレルワールドに存在するもう一つの日本での出来事。

 不況がピークに達し、税金は上がる一方の中、国民たちは働き詰めの毎日を課せられていた。
当時の彼らの娯楽といえば、自生活を写真におさめてSNSに投稿するという行為であった。人目を惹く投稿をすると、それを見た人の反応が増えて嬉しいので、彼らは実際の写真に加工アプリで手を加えて、ちょっ

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