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はりねずみは大樹で一休み


全身の針を逆立てて、怖いものを追い払おうとする。そうすることでしか自分の弱さを守れない。

自分に正直になることが、大の苦手だった。一番針が突き立てられているのは自分の心なのに、覆い隠して取り繕って、全然気にしてないふりをする。でも、わたしは人を見くびっていた。人は、わたしが思っているより優しく賢いので、わたしのちぐはぐさをあっという間に見抜いてしまう。気づいてないのはわたしだけ。


貴方なんていらない。そうやってそっぽを向いて、実は手鏡で貴方の様子をじっと伺っている。

いやらしいようで事実なんだから仕方がない。臆病なわたしを許して。手鏡に映ったうちの1人は、そっぽを向いてどこかへ行ってしまった。でも、ずっとわたしの方を向いている物好きな人もいて、その人はやがて特別な存在になっていった。
不器用なやり方でしか、わたしは人を愛せない。


ものすごく優しい人に出会って目が眩んだ。わたしのちっぽけな常識の中では、その人の優しさはむしろ怪しかった。わたしは訝しんだまま、その根元に腰掛けて一休みをする。そしたら案外居心地が良く、気づいたらもう5年が経っていた。

そこにいると、いろんな仲間がやってきた。唄を歌う鳥、くるみを分けてくれるりす、あったかい寝床になってくれるくま、世界を放浪する旅人のうさぎ。
みんなみんな、良い人だった。みんなと一緒に時間を過ごすに連れて、いつの間にかうまく針が立てられなくなっていた。でも、わたしはそれに気づかなかった。そんなことよりも笑ったり食べたり泣いたりすることが楽しくてしょうがなかった。


ある時、ひさびさに手鏡を取り出して自分の体を写してみた。そしたらあの時の傷跡が、今ではかっこいい紋章になっていた。
それをみんなに見せたら、みんなもそわそわと腕まくりをし始めた。おんなじような紋章が、みんなの体にも刻まれていた。みんな、なんだかニヤニヤ笑ってた。わたしもつられてニヤニヤ笑った。知らぬ間に涙がこぼれていた。



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#詩
#小説

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