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緒真坂 | アナログガール

 6月に渋谷ヒカリエに行った。その時に著者の緒先生にお会いした。去年の12月に初めてお会いして以来の再会だった。
 いろいろお話しながら、購入した「妻くんといっしょ」と「アナログガール」に直筆のサインをいただいた。
 新刊の「つまくんといっしょ」は、noteで発表されたエッセイが多く収録されていて、比較的軽い文体で書かれている。一度読んだこともある作品も多く、すぐに感想文を書くことができた。


 それに対して「アナログガール」は、初めて読むミステリーであり、また、色々な要素が詰まった作品なので、なかなか感想を書けないでいた。

 「アナログガール」は、ミステリー的な要素が強いので、ネタバレになってはいけない。それ故、感想が書きにくいのだが、感想文を書いてみたい。作品の性質上、あらすじを書くことは差し控える。読みながら思ったことを素描する。

 「アナログガール」は二度通読したが、その時に脳裏に浮かんだ、過去に読んだ他の作家の本が何冊かある。
 犯罪加害者の視点から書かれた東野圭吾の「手紙」、内ゲバを描いたドストエフスキー「悪霊」、ルメートルのミステリー小説「その女 アレックス」などである。犯罪を起こす動機や心理に着眼するという点では、松本清張の一連の推理小説のような感じもした。

 「アナログガール」のストーリー自体は、登場人物は比較的少なく、さほど複雑ではない。しかし、作品全体を貫く「嫉妬」や「恨み」の心理は複雑だ。
 女が愛する男に対してもつ嫉妬、女が他の女に対してもつ嫉妬、男の男に対してもつ嫉妬。
 これらの嫉妬は、一般論としては想像できるが、分かるようでいて、なかなか把握しにくいものがある。作品を読んでも、個々の登場人物の嫉妬は、分かったような気持ちにはなるが、私が思った嫉妬心と同じかどうかは分からない。また、読み始めた時に感じた主人公の希という女性のイメージも、物語の最初と最後ではだいぶ変わった。

 作品の中に、マイルスの音楽が登場する。どういう音楽なのか私は知らないが、登場人物の語る言葉は、ポリフォニーのようだ。口から出てくる言葉をそのまま受け取っていいのかどうか。音にならない音を聞き逃していないか。CDで聞くのとレコードで聞くのは同じかどうか🙊。

 ストーリーとは直接関係ないが、「アナログガール」には、「アルタ」が出てくる。私は「アルタ」と聞くと、「笑っていいとも!」、そして、タモリ😎さんを思い出してしまう。タモリさんは、jazzにも詳しいから少しは関係あるのかもしれない😄。一度目に読んだ時は、タモリさんのことが頭に浮かんでしまって、物語の先へ進むのに時間がかかってしまった。2回目に読んだときは、気にせず読むことができた。

 「アナログガール」の後書きで、テニスコートが出てくる。
 「アナログガール」をテニスに例えれば、ゆっくりとしたロングラリーから始まった試合が、終盤ではスマッシュの応酬になるような感じである。特に最後の20ページでは攻守が目まぐるしく変わる展開だった。

 私は、主人公の中西希の視点で「アナログガール」を読んだが、読み終わってみると、田中栞ってどういう人物だったんだろう?ということが気になった。
 栞は他人の会話中に出てくるが、直接、作中に登場するわけではない。もう一度読むときには、栞の視点で登場人物を考察すると面白いかな、と思っている。夏目漱石の「坊っちゃん」を、「漱石=坊っちゃん」として読むのと「漱石=赤シャツ」として読むのとは印象がまるで変わるように。

 「アナログガール」は、百ページを少し越える長さの小説だけれども、色々な要素が盛りだくさんだ。短編小説あるいは中編小説くらいの長さだが、長編小説として書かれていたとしても面白いのではないか、と想像する。
 「あとがき」によれば、「アナログガール」は、以前私も読んだ「スズキ」につづく本である。そのぶん、作者の「アナログガール」に注いだ気持ちがこもっているような気もした。

 私は小説というと、現役の作家ではなく、ブロンテ「ジェーン・エア」やハーディー「テス」などを思い浮かべる。その中でもドストエフスキーを強く意識する。
 「アナログガール」はドストエフスキーの作品でいうと、「未成年」に当たる作品のように思えた。
 「未成年」は、ドストエフスキーの長編小説の中でも、さまざまな要素を詰め込んだ作品である。それ故に、読む人によって評価が大きく異なる。
 私は「未成年」が好きだが、まだドストエフスキーを読んだことがない人には、短編の「鰐」や「おかしな男の夢」、長編なら「罪と罰」をすすめる。
 緒先生の作品を読んだことがない人には、「スズキ」や「ボブディランとジョン・レノンでは世界を語れない」あたりをすすめる。最初に読むなら「つまくんといっしょ」がいいかもしれない。その後で、「アナログガール」を読んだほうが、楽しめるかなと思う。ミステリーだから、凄惨な描写もある。もちろん人それぞれだと思いますが… …。

 ネタバレを恐れる故に、内容に踏み込むことができませんでした。🍁読書の秋📖🍁に、実際に手にとって読んでいただければ、と思います😄。

 


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