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臀物語

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タイトルをしりとりで繋げる物語、です。 「しりものがたり」と読みます。 第1,第3,第5日曜日に更新予定です。 詳しくはプロフィールに固定してある「臀ペディア」をお読みください。
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#小説

つくね

 もうすっかり太陽も沈みかけているというのに、この蒸し暑さだけは終わるところを知らない。
 スマホを確認すると、暑いから食堂の中にいるとのメッセージが。
 俊作も手で自分を仰ぎながら食堂へと向かった。
 もう5時限目が終わったこともあり、食堂にはぽつぽつとしか学生はいなかった。
 サークルの集まりだろうか、やけに騒がしくしている集団が一つ。それもまた青春である。
 食堂をずんずん進んでいくと、大河

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ダーツ

ビルに入り、1Fに止まっていたエレベーターに乗り込む。
エレベーターの中には大河一人。いざ乗り込むと目的の6Fのボタンを押す。エレベーターは、3F、4Fと上がっていく。
あっという間に目的の6Fに着く。陳、-という音が鳴り扉が開くと、目の前には薄暗い風景が広がっていた。
「ここ、だな。」
大河は少しビビりながらそう呟いた。
周りの様子を伺いながらエレベーターを降りると、大河は怪訝そうな表情を浮かべ

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焼豚

 空一面に雲が広がり、どんよりとした陽気の日曜日。そんな天候のためか、この季節にしては少し肌寒い。
 せっかくの日曜日にもかかわらず、割と早い時間に目が覚めてしまった英一は、もう一度寝ようか、なんてことを思いながら布団の中でスマホをいじっていた。
 そんなことをしていると、眠くなってくるどころか、どうにも目がさえてきてしまい、英一は起き上がることにした。
 学校のテストは少し前に終わったばかりで特

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神社

 トントン、と扉をノックする音。
「はーい。」
「ほのか、ちょっといいです?」
「うん、いいよー。」
 ほのかの返事を聞き、クリスは扉を開ける。
 勉強でもしていたのであろうか、クリスが部屋に入るとほのかは椅子を回転させ、扉の方を向いていた。
「Oh,ごめんなさい。勉強でしたか。」
「ううん、大丈夫よ。」
「ああ、よかった。」
「で、どうしたの?」
 ほのかは改めて用事を尋ねる。
「ああ、そうです

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リベンジ

「頼もう!」
 放課後のこと、陽介は大きな声でそう言いながら、勇樹の席に近づいてくる。
 何事だろう、とまだ教室に残っているクラスメイトたちが二人の方を見てくる。勇樹はそれがたまらなく恥ずかしかった。
「うるさいな。」
 恥ずかしさを押し殺すように、いつもより強い口調で責める。
「頼もう!」
 しかし、陽介は懲りない。
「はあ…」
 勇樹はため息をつく。どうやら今の陽介にこの言葉は届かないらしい。

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舟盛り

「30番でお待ちの客様―。」
 白い帽子に白いシャツ、そして黒いズボンを履いた、おそらく普段は大学生をしているのであろう女性が、待合スペースの方に向かって大きな声で呼びかけた。
「はーい。先生、呼ばれましたよ。」
「ああ、よかった。」
 高森が番号が書かれた紙を渡すと、店員は13,14と書かれた札を手渡された。
「こちらカウンターの席となっております。」
「わかりました。」
「ごゆっくりどうぞ。」

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グループ

6時間目は睡魔との勝負。
これからの放課後の予定に向けて充電しようとたっぷり寝るものもいれば、授業終了を告げるチャイムがなったらすぐに帰れるように帰り支度を済ませるものもいる。
しかし今日はLHR。こういうときはなかなかそうするものも少ない。
「うん、じゃあ今日はこんなもんだな。」
小宮山は生徒たちの方を振り返る。
「で、さっきも言ったけど、来週のこの時間にこの修学旅行のグループ決めをするから、な

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積読

 午前中の仕事を終えた石嶺が休憩室に入ると、右手にスマホ、左手におにぎりを持った佐古が真剣な表情でスマホを眺めていた。
「お疲れ。」
 石嶺が声をかけたが、佐古からの返事はない。
「佐古、お疲れさん。」
「お、おお、石嶺。」
 佐古は驚いた様子で反応した。
「おお。」
「ああ、お疲れさま。今から昼休み?」
「うん。ここ座っていいか。」
「もちろん。」
 佐古は石嶺が座りやすいようにと自分の荷物をど

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厚底ブーツ

 当初の目的通り、油そばを食べる任務を終えた英一は、特にやることもなくなってしまい手持ち無沙汰だった。
 それでもこのまま帰るのは忍びない。どうしたものかと駅前をさまよっていると、何やら見たことがある人影が。
 英一は彼に近づいて声をかけた。
「大菅くん?」
 突然声をかけられた圭祐は、飛び上がって驚いた。
「わあ、九十九くん。」
「ごめん、突然声かけちゃって。」
「いや、全然。」
 圭祐は首を横

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メンタルケア

 子供の頃は春休みに夏休み、それに冬休みとほとんど季節ごとに休みがあった。
 最近は8月の最期の方には学校が始まるところも多く、時代は変わってきているわけだが、それでも1カ月近く休みがあることに変わりはない。
 その中でも特にすごいのが大学生である。
 冬休みが二週間ほどに、春休みと夏休みは二カ月ずつ。正味学校が通常通り稼働しているのは7カ月ちょっとの期間だけ。
 しかも当然のことながら大学は義務

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湯冷め

 お役所仕事にももちろん繁忙期はある。
 人が移動することが多くなると、その分、役所での手続きも増える。その結果として、忙しくなるのだ。
 残業すれば、その分は給料として反映されるため、いわゆるブラック企業よりはいいかもしれないが、それでも大変なことには変わりない。
 そんな残業続きからか、石嶺は最近あまりジムに通えてなかった。
 それなりに仕事は忙しいが、行く時間がないわけではない。しかし、忙し

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ラー油

「お待たせしました、こちら油そばになります。お暑いのでお気を付けください。」
 タオル鉢巻をした若い男性店員は、カウンターの上に油そばを置きながらそう言った。
「ありがとうございます。」
「卓上のトッピングはご自由にお使いください。ごゆっくりどうぞ。」
 そういうと、店員は湯気立ち昇る調理場へと戻っていった。
 英一は細心の注意を払いながら、カウンターの上に鎮座している油そばをゆっくりと机の上にお

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銘柄

「ふうー。」
 高森は自販機でコーヒーを買うと、深いため息をついた。
「いただきます。」
 こうやって気分が落ち込んでいる時こそ、しっかりと感謝を口にする。高森は昔からそう決めていた。
「はあ、美味しい。」
 疲れていつもより少し弱った体にコーヒーが沁み渡る。
 高森は宙を見つめながら、ただただ黄昏ていた。
 誰かが自分の名前を呼んでいる気がする。
「…もり。高森、高森!」
「はい!」
 自分の名

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寸止め

「はあ、疲れたあ。」
 いつも通り、公民館での練習を終えた真壁はそう呟いた。
「ああ、確かに。真壁さん、最近お休みされてましたもんね。」
 清志も着替えながらそう答えた。
「そうなんだよ。え、下手したら一カ月ぶりくらい?」
「え、そんなになります?」
「うん。年初めの練習は来たけど、そっから休んでたもん。」
「あ、そうなんですね。なんかあったんですか。」
「いや俺な、今年成人式なんだよ。」
「あ、

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