つくね

 もうすっかり太陽も沈みかけているというのに、この蒸し暑さだけは終わるところを知らない。
 スマホを確認すると、暑いから食堂の中にいるとのメッセージが。
 俊作も手で自分を仰ぎながら食堂へと向かった。
 もう5時限目が終わったこともあり、食堂にはぽつぽつとしか学生はいなかった。
 サークルの集まりだろうか、やけに騒がしくしている集団が一つ。それもまた青春である。
 食堂をずんずん進んでいくと、大河と渡が座っているのが見えた。
「すまん、待たせた。」
「おお、お疲れー。」
 俊作はとりあえず、渡の隣の椅子に腰かけた。
「あれ、二人は授業なかったの?」
「うん。俺は三時間目まで授業受けて、部室で駄弁ってた。」
 大河はスマホをいじりながら答えた。
「ああ、そうなんだ。」
「俺はすぐそこで授業だった。」
「そっか。」
 俊作が授業を受けていた棟は食堂から離れていたため、どうやら自分の方が遅かったらしい。
「あれ、龍星は?」
「ああそうそう、サークルの部会みたいのがあるから少し遅れるって。」
 俊作は一応さっきの団体の方を眺めてみるが、そこには当然いないようだ。
「いやあそこにはいないっしょ。」
「わかってるけど。」
 龍星はこの学内でも一番大きく伝統のあるボランティアサークルに入っていた。
「今日はもう店決まってるんだっけ。」
「うん、19時から予約しておいた。」
 渡は親指を立てながら答える。
「あざっす。おお、てかまだ一時間くらいあるね。」
「龍星が部会入りそうって言ってたから。」
「ああ、そうなんだ。」
「あれ、こっから近いんだっけ。」
「近いよ。ほらあの、駅前にさびれたカラオケ屋あったじゃん。」
「ああ、あったなー。一回も行ったことないまま閉まっちゃったけど。」
 大河はにやけながらつぶやいた。
「そうそう、あそこにできたお店。」
「へえ。」
「なんか結構評判いいらしくて、焼き物がいいらしいよ。」
「焼き鳥とか。」
「そう。つくねが一押しメニューって言ったかな。」
「いいじゃん。つくねなんて誰でも好きだからね。」
「そうだな。価格も高すぎず?」
「うん、大学生でも全然いける値段らしくて、意外と広い部屋もあるらしいよ。」
「じゃあ今日行ってみてよかったら…」
「ゼミとかサークルでも使えるんじゃない。」
「おお、いいじゃん。」
「さすがに教授いたら微妙か。」
「まあそれはね、さすがに。」
「あ、そういえば、バイト先のことはどうなってんの?」
「ええ?」
 白々しそうな反応をする大河。
「何その話。」
「なんかいい感じの子がいるらしいのよ。」
「おーい、聞かせろよ。」
「いやあ、まだよまだ。」
「ホントか?」
「ホントだって。」
「ちょっとこれは、後でしっかり聞かせてもらおうか。」
「いいってばー。」
 少し照れ臭そうな表情を浮かべる。
「いやいや、ダメだダメ。」
「いいよホントにー。」
「ちょっと…」
 俊作は渡に耳打ちする。
「酒入ったらべらべら話すよ。」
「ふ、間違いないな。」
「何こそこそと。」
「「なんでもないって。」」
 二人は笑いながらそう答えた。

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