神社

 トントン、と扉をノックする音。
「はーい。」
「ほのか、ちょっといいです?」
「うん、いいよー。」
 ほのかの返事を聞き、クリスは扉を開ける。
 勉強でもしていたのであろうか、クリスが部屋に入るとほのかは椅子を回転させ、扉の方を向いていた。
「Oh,ごめんなさい。勉強でしたか。」
「ううん、大丈夫よ。」
「ああ、よかった。」
「で、どうしたの?」
 ほのかは改めて用事を尋ねる。
「ああ、そうです。ほのか、土曜日か日曜日は空いてますか。」
「今週の?」
「そう、です。」
「ちょっと待ってねー。」
 ほのかは机の端の方に置かれたスマホを手に取ると予定を確認しだした。
「日曜日は予定があるから、土曜日だったら大丈夫。」
「ああ、ホントー?」
 クリスは嬉しそうな表情を浮かべた。
「うん。どこか行きたいところがあるの?」
「そうなんです。ずっとずっとずーっと行ってみたくて、行ったことなくて。」
「へえ、どこ?」
「ああ、神社。」
「神社?神社ってあの初詣とかをする神社?」
「そうです。」
「ああ、全然いいけど、どうして?」
「元々行ってみたくて、でも私クリスチャンだからダメかなって。でもこの前大学の授業でそう言うのは関係ないんだよ、って聞いて、それならって。」
「ああ、なるほどね。それなら、行きましょう。」
「はい!」
「どこの神社に行きたいとか、そういうのはあるの?」
「ああ、それが分からなくて。調べたらいっぱい出てきますから。」
 クリスは困った表情を浮かべた。
「まあそうだよね。」
「ほのかたちはどこに行きますか?」
「うちが新年とかに初詣に行くのは、近くの元素(もとす)神社かな。」
「モトス神社?」
「そう。元素ってわかる?水素とか酸素とかの。」
「うん、はい。」
「あの元素って書いて、『もとす神社』って言うの。」
「ああ、そうですかー。」
「そういえばあっちの状に行くことなかなかないから、もしかしたらクリス知らないかも。」
「ああ、この街のこと、また新しく知れるの嬉しいです。」
「うん、そうだね。そしたら、土曜日に元素神社まで行こっか。」
「はい、お願いします!」
「任された。」
 クリスもほのかもとても楽しそうに見えた。
「あ、神社のルールも調べました。二礼…二礼…」
「二礼二拍手一礼、ね。」
「あ、それです!」
「難しいよね。それはまた当日にしましょ。」
「そうですね。ちょっとそれまでにもう一度見ておきます。」
「わかった。」
「じゃあ、お風呂入ってきますー。」
「はーい、いってらっしゃい。」
 クリスが手を振りながら部屋を後にする姿を見て、ほのかは思わず笑みがこぼれるのだった。

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