リベンジ

「頼もう!」
 放課後のこと、陽介は大きな声でそう言いながら、勇樹の席に近づいてくる。
 何事だろう、とまだ教室に残っているクラスメイトたちが二人の方を見てくる。勇樹はそれがたまらなく恥ずかしかった。
「うるさいな。」
 恥ずかしさを押し殺すように、いつもより強い口調で責める。
「頼もう!」
 しかし、陽介は懲りない。
「はあ…」
 勇樹はため息をつく。どうやら今の陽介にこの言葉は届かないらしい。
「もう、なんだ。」
「道場破りだ。」
「道場破り?」
 陽介からは似つかわしくないセリフに勇樹は聞き返した。
「うん。とりあえず、ゲーセンに行こう。」
「ゲーセン?今から?」
「そう。」
「まあ、いいけど。」
「やったね!」
 勇樹には心なしか陽介の目が熱く燃え滾っているように見えた。

 今日は予定があるから、と英一はそそくさと帰ってしまったため、勇樹は陽介と二人でゲーセンに向かった。
 いつもなら何気ない話をしながら向かうものだが、今日の陽介は静かだった。
「大丈夫か?」
「うん、なんで。」
「いや、妙に静かだから。」
「全然大丈夫。」
 どうやら元気ではあるらしい。
 ゲームセンターにつくと、普段なら入口のUFOキャッチャーを見ながらゆっくり進んでいくものだが、今日の陽介はズカズカと進んでいく。
「UFOキャッチャー、見なくていいのか。」
 一応、勇樹はそう尋ねる。
「今日は大丈夫。」
「おお。」
 そして、音ゲーや格闘ゲームなどの筐体がたくさん置かれた店の最奥へと向かう。
 こういうゲームセンターの暗さはどうにも冒険心をくすぐられる。
「これこれ。」
 陽介がたどり着いた先にあったのは、勇樹は愛してやまない「戦鬼 -ONONOKI-」のアーケード版だった。
「『戦鬼 -ONONOKI-』じゃん。」
「そう!」
「これを、やるの?」
「うん。リベンジだ!」
「リベンジ?」
「そう、リベンジ。」
「え、何の?」
「『戦鬼 -ONONOKI-』のリベンジだよ。」
「え、これやったことあったっけ?」
「あるじゃん、勇樹んちで!」
 本来ならゲームセンターの中は音が鳴り響いているため、どうにも聞き取りづらいものだが、今の陽介の言葉ははっきりと聞き取れた。
「そりゃあな。でも、これはやったことないぞ。」
「そりゃあね、でもできるでしょ。」
「いや、俺本当にアーケード版やったことないんだってば。」
「え……?」
 ぽかんとした表情を浮かべる陽介。
「いや、やったことないよ。」
「全く?」
「全く。」
「うわあ…」
 陽介は何も言えなくなった。
「最近、練習してたのか?」
「うん。まっつん倒そうと思って。」
「すまん。」
「いや、僕の方こそ。」
「まあ、せっかく来たからやるか?」
「うん、やろう。」
 二人は隣同士で座り、財布から百円玉を取り出した。

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