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花束の約束 - 第三話

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 ⒋花束の約束【第0章】- episode of zero -〈第3話〉『 始まり 』







【2026年8月25日土曜日】

 あれから1週間が経ち、検査を終えた17:30。僕は今日も、孝徳達が面会室に来るのを待っていた。

 外の季節はきっと夏なのだろう。僕はこの施設から一歩も外に出られない為、外の世界の状況が何も分からなかった。

 しかし、テレビやネットは繋がっているので、ニュースやその日のトレンドなんかはチェックする事ができた。

 おまけにここに居る間は、無料で漫画や小説が読み放題だった。と言うのも、僕がドクターに注文すれば全て買え揃えてくれるのだ。

 なので僕は、右目の痛みが酷い時以外は、ドクターに注文した漫画や小説を読んで過ごしていた。

 しかし、この施設で不可解な点が幾つかある。

 【問・その一】なぜ隔離する必要があるのだろうか?

 【問・その二】そもそも僕の目の病気は、人に移る病気なのだろうか?

 【問・その三】もしそうだとしたら、なぜ僕にその情報が回ってこないのか?

 【問・その四】そもそも僕が麻酔で眠らされている間、どんな検査をしているのだろうか?

 正直、キリがない程の疑問が頭の中に沸いていた。

 しかし、僕にはどうしようも出来ない。なぜなら、僕には知識が全く無いからだ。

 医療の知識も、病気の事も、全くと言って良いほど自分では何も分からない。

 だから僕はドクター達を信用する事に決めた。

 この病気を一刻も早く治してもらえるのなら。
 この病気が他の誰かにも発生しているのなら、僕はドクター達の研究材料になっても構わないと思ったのだ。

 そんな事を考えながら本を読んでいると、いつの間にか時間は17:56になっていた。

 考え事をしていた為、あまり本の内容が頭に入ってこなかったのだが‥‥。そろそろ孝徳達が面会に来る時間だ。
 僕は今読んでいる本のページに栞を挿して、面会室へと向かった。

 僕の部屋から面会室へのルートは1つだけである。
 部屋を出たら長い廊下をひたすら真っ直ぐに進み、エレベーターでB3から面会室のあるF1まで上がる。
 そしてF1に到着したら『Visiting room❷』と書かれた部屋に入る。

 ちなみに『Visiting room❶』は、いつもドクター達とカウンセリングや診察などをしてもらう時に使用する。

 この施設は何と言うか、病院?と言うより近未来的な刑務所のようだと思う。見た感じではだけど…。

「こんちわ〜チサトっち!!今日はいつにも増して元気そうだな!!良い事でもあったの?」

 相変わらず陽気な孝徳がガラス越しに話しかける。

「別に何も無いよ〜。あれ?今日は孝徳と椎菜の2人だけ?」

 どうやら今日面会に来たのは、孝徳と椎菜の2人だけのようだ。
 まぁ、これまでずっと4人が時間を合わせて来てくれていたから、僕も心配していた所だ。
 土曜日は休日だし、1日くらい面会に来ない日があっても別に構わないのだが。1日くらい…。

「こんにちわ知束くん。今日、義也君は陸上の選手権大会に行ってるよ。マヤちゃんは義也君の応援だってさ!」

「あ〜、そう言えば今日が夏最後の大会だっけ」

「そうらしいよ〜!それで、義也君とマヤちゃんから手紙預かってるから、いつもの差し入れ口に入れておくね」

「うん、ありがとう!」

 こんな日常にも慣れてきた。
 慣れとは恐ろしい物で、ココに来たばかりの頃は不安と恐怖で体の震えが治らなかった。しかし、今となってはココに居る方が安心できる気がしていた。

「そーだ!チサトっちって本好きだったよな?実は駅前の書店で、お前が好きそうな本仕入れといたからさ、良かったら読んでみろよ!」

「本当?ありがとう!」

「あ‥‥‥、えっちぃ本も入れといたから、椎菜ちゃんにはバレんなよ‥‥‥?」

 孝徳は、僕に聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声で言った。その顔は、何故だがめちゃくちゃドヤ顔である。
 その後ろで、椎菜が純粋そうな顔をしながら僕らを見ていた。

「タカノリくん?何をコソコソ話してるの?」

「いや〜!別に〜?????」

 僕は少し苦笑いを見せた。
 孝徳はいつもこんな感じなのだ。世話焼きなのか、気を遣っているのか。
 まぁコレも、孝徳なりの“優しさ”なのかも知れない。そう考えたら、コイツの不器用さも憎めない気がした。

「‥‥‥じゃあ、俺今日は先に帰っから!後は若いお二人でって事で。ほんじゃ、さいならぁああああああ!!」

 そう言って孝徳は、全力疾走で面会室を飛び出して行った。
 その後ろ姿を見て、やっぱりアイツはただのバカなんじゃないか?と思ってしまったが、気にしないでおこう。

 僕の前には、椎菜が1人でポツンと立っている。
 どうやら少し顔が赤いような気がする。夏風邪だろうか?

「アイツ意味わかんないよね〜!」

「‥そ、そうだね〜!」

 僕はそのまま思った事を言ってみる。しかし、椎菜の反応が少し変な気がする。

 いつもならもっと笑いながら答えてくれるのだが、その様子は少し、よそよそしかった。

 やっぱり風邪を引いているのだろうか?

「孝徳のヤツ、何考えてんだろうね〜!」

「‥わ、分からないね〜!」

 うん、明らかに椎菜の様子がおかしい。
 どうもさっきから目を合わせてくれない。それに椎菜の顔が異常なほど赤い。凄く熱があるみたいだ。

「椎菜、大丈夫?」

 心配になった僕は、椎菜に質問してみる。
 しかし椎菜は、オドオドした表情で「だ、大丈夫だよ〜」なんて、見え見えの嘘をついていた。

 きっと、隔離されている僕に心配させまいと気を遣っているに違いない。
 そんな事を考えていると、少し間を開けて、椎菜が目を泳がしながら質問してきた。

「ねぇ、知束くん‥‥‥。知束くんは、病気が治ったら、まず何をしたい?」

「んー、そうだな。今まで考えた事無かったから、これと言ってしたい事とか無いかも」

「‥‥‥そっか。」

「強いて言うなら、皆んなで遊びに行きたい!ほら、高1の時みたいに5人ではしゃぎまくってさ!後カラオケにも行きたいな!皆んなで日帰り旅行とか楽しそうだし、そう考えたらやっぱやりたい事いっぱいあるかも!」

「‥‥‥それいい、楽しそう!」

 つい調子に乗って、やりたい事を熱く語ってしまった。しかし、椎菜はそれに乗ってくれた。
 それどころか、さっきまでとは違い、僕の目を真っ直ぐに見て話を聞いてくれる。
 思わず僕も、熱を込めて話し込んでしまった。

「後、マヤちゃん家のラーメン食べに行きたい!」

「それは私も食べたい!」

「うん、絶対行こうね!」

 そう言って椎菜は僕の他愛もない話を聞いてくれた。

 『 もしも、この病気が治ったら? 』

 『 もしも、退院する事が出来たらなら? 』

 僕はそんな事をこれまで考える暇も余裕も無かった。その反動で、今日は久しぶりにテンションが上がってしまった。

 本当は、皆んなとやりたい事が沢山あった。しかし、僕はいつの間にか忘れていたようだ。

 だからこそ、これからはちゃんとこの病気と向き合う事に決めた。少しでも早く、皆んなの元へ帰れるように。

 絶対に治して皆んなともう一度、思いっきり遊びたい!

 その日、僕の心に新しい目標が生まれた。

 そうして長々と話をしていると、面会終了のブザーが鳴った。
 そのブザー音を聞いて、椎菜は名残惜しそうに言った。

「じゃあ‥‥。また来週も来るね」

 椎菜は毎週欠かさず僕に会いに来てくれる。僕にとって、それが少し申し訳ないような、心配なような‥‥。
 とにかく、椎菜には椎菜の人生があるのだから、あまり僕の為に気を遣わせないようにしたい。

「あんまり無理しないでね。毎週来てくれるのは嬉しいけど、ほんとにたまにでいいから。無理しないでね」

「‥‥‥うん、分かった。」

 そう言って椎菜は面会室を出た。
 いつも通り椎菜の後ろ姿を見送った僕は、そのまま自分の部屋に戻るのであった。

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最後までお読み頂きありがとうございます。
これからも日々精進し、こちらの作品を最後まで執筆致します。

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最後までご覧頂き誠にありがとうございました。

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