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【短編】『曖昧な関係』

曖昧な関係


「私はあなたの言ってることが信じられないわ。」

「どうして信じられないんだ。」

「どうしてって、」
と言葉に詰まると、突如として諦めの念が私の腑に広がり、スンッと彼から目を背けてしまった。

「そうやっていつもふてくされるんじゃ、どうしようもないよ。」
と淡々と物静かに彼は言うと、ポケットから白いマルボロの箱とライターを取り出し、誰もいない屋上の手すりに寄りかかって一服し始めた。彼は自分の吸っているタバコを無言で差し出してきたが、私は彼と話すつもりはなく依然そっぽを向いていた。そして、しばらく経ってから呟いた。

「そういうところなんじゃないの?」

「どういうところ?」

「ふつう自分が吸ってるタバコを渡してくる?何したってケチなんだね。」

「いや、だって。おまえタバコあんまり吸わないだろ。一本渡したら半分吸って捨てるじゃんか。」

「だからって、今回も私が半分しか吸わないとは限らないじゃないの。そうやって簡単に人のこと決めつけないでよ。」

タバコの煙が奥の団地の方に飛ばされていくように、私の気持ちも次第に団地の方へと移っていった。

「おい、何でおれのこと無視するんだ。」

「何よ?あんたが何も返さないんでしょ?」

「いや、考えてるんだよ。」

「考えるって、何を?」

「謝りたいんだ。」

「何を謝るかすらわかってないのにどうやって謝るの?」

「それを考えてるんだ。」

「自分がしたことわかってないの?」

「わかってる。けど、」
と彼は何かを言いかけて急にしゃがみ込んだかと思うと勢いよくむせ始めた。私は小さくなった彼を見て情けなさを感じながらも、仕方なくいつもバッグに入れていた水筒を取り出して渡した。

「ありがと。」

「いいえ。」

「おかげでだいぶ落ち着いた。自分が何をしたかはわかってる。けど、どうしたら許してくれるかわからないんだ。」

「じゃあ、あなたは何をしたの?」

「オレは、君との記念日に友達との予定を入れてしまった。」

「そうだね。」

「けど、それを中断して今ここにいる。」

「うん。当たり前だわ。」

「けど、君が祝わなくてもいいよって言ったからおれは。」

「なに?私は、レストランは予約しなくていいって言ったのよ。」

「それってつまりどう言うこと?」

「なんでわからないの?」

「いや、はっきり言ってくれないとわからないよ。君は何もかも曖昧にして言うじゃないか。そんなんで君が求める答えなんて出せるわけないだろ。」

「もういいわ。」
と私は言って、階段の方へと歩いて行った。彼は私を追いかけるそぶりすら見せなかった。私は、出口の印を辿って廃墟を出た。そのまま、団地の方へと帰ろうとした時だった。屋上の方から彼の声がした。

「ごめーーーん。おれが悪かったーーー。君の言う通りだーーー。」

上を振り向くと、彼は何かを掲げて叫んでいた。よく見ると、先ほどは持っていなかった花束だった。

「今までも、これからも好きだーーー。」
と彼は言うと、私はすぐにそれに返答した。

「私もよーーー。」


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