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エッセイ

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#まいにち日記部

シャッターを切ることを許された日のこと

シャッターを切ることを許された日のこと

青森の先っぽ。下北半島にある尻屋崎灯台に行ったのはもう5年近く前のことだと言うのに、いまでもその記憶は鮮明だ。

バスを乗り継いで、ついたはいいけど帰りのバスは3時間後くらいで。周囲にはお店も何もなく、ただ海が広がっているだけ。
他にすることもないので、ひたすら灯台や海の写真を撮っていた。ああでもない、こうでもないなんて思いながら、アングルや構図を変えて、その日だけで何枚撮ったのかなあ。

時間が

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半分このわたしたち。

半分このわたしたち。

朝、わたしのアラームで、彼のほうが先に目を覚ました。朝と夢の間をさまようわたしをよそに、少し暑かったのか、彼が窓を開ける。梅雨特有の冷たくて湿った空気が部屋に流れこんでくると、彼は再び眠りについた。そうか、彼は今日休みと言っていたなあと、ぼんやりした意識のなか思う。

だんだん少し寒くなって、寝ている彼の腕の中に潜り込んだ。わたしは寒がりで、彼は暑がり。そんな彼の腕の中は案の定、ほかほかに暖かくて

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そらいろ

そらいろ

10時20分ごろの空が一番好き。11時だと白すぎて、9時もまだ違くて。10時20分の空の色が、大好きなんだよね。

とあるインタビューを読んだとき、わたしの心はどうしようもないくらい揺れた。

言葉の主は、わたしが10年以上恋をしているアーティスト。
恋、と言うと語弊があるかもしれない、憧れと言ったほうがスムーズなのかもしれないけれど、本当にわたしは、彼の作る言葉や歌声や音楽に支えられ生きてきた

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わたしの「生きる」は食卓に

わたしの「生きる」は食卓に

ここのところずっと体調が悪かった。
そのせいで一週間仕事に行けず、飲みたくない薬を飲まないと熱と寒気で夜も眠れず、病院に行っても原因がはっきりしない。痛い痛い、とひとりで喚いても症状が改善するわけもなく、名前も付かず、いつまで続くかもわからないこの状態に、ネガティブなわたしは完全に気が滅入っていた。

このままずっと仕事に行けなかったらどうしよう。
お金がなくなったらどうしよう。
何か怖い病気だっ

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友だち未満。

友だち未満。

今日はとても珍しい夢をみた。

昔付き合っていた彼と、再会した夢。

わたしは友だちだか知り合いだかのアパートにきていて、2階にある部屋の玄関の前でずっとその人を待っていた。
するとアパートの下の道路に、自転車がひとつ止まって。
視線を感じて下をみると、自転車に乗っていたのはその彼だった。

話を聞くと、どうやらその彼はわたしの友だちの部屋の、隣の隣に住んでいるらしい。
アパートの廊下で、どこから

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逃げこんだ先に出会った人

逃げこんだ先に出会った人

『好きかどうか、もうわからない』

あの夏、わたしの心が、わたしに告げたこと。
一緒にいると安らぐし、笑っていてほしいし、こんなに愛してくれる人、きっと他にいないのに。でも、それでも。

わたしは逃げるように、一人イタリアへ旅立った。

たくさんの人に出会った。
涙が溢れる景色にも、おいしくて感激したジェラートにも。

そしてなによりわたしは、あの夏のイタリアで、日本に残してきたはずのあなたに会っ

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旅する日本語コンテスト、優秀賞を頂きました。

旅する日本語コンテスト、優秀賞を頂きました。

去年の夏ごろnoteで募集があった、私の旅する日本語2018 コンテスト。

先日note運営事務局の方から連絡があり、わたしのエッセイ「逃げこんだ先に出会った人」が優秀賞を受賞したと連絡を頂きました!

▼受賞したnoteはこちら

▼受賞発表された記事はこちら

(note運営事務局の方からは優秀賞と連絡を頂きましたが、こちらでは片岡鶴太郎賞になっています)

1月中に「旅する日本語展20

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14歳の教室。

14歳の教室。

すれ違った瞬間が、永遠に感じられるような恋だった。

もしも、恋を選ぶことができるのなら。好きになる人を選べるというのなら、わたしは決して彼を好きにはならなかっただろう。

彼はわたしの親友であるMに、恋をしていたのだから。

叶わないことなんてわかっていたのに、崖の上から滑り落ちるように、気づいたらその恋の淵に立っていた。
彼は毎日まいにち、Mと話すために教室に通っていた。側から見れば、彼がMの

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だからわたしは、海外に行く。

だからわたしは、海外に行く。

わたしが海外に行く理由は、すごくネガティヴだ。

今まで周りの友人や知人に「どうしてそんなに海外に行くの?」と聞かれたら、「世界遺産が好きだから」「非日常感を味わいたいから」みたいなことを答えていた。もちろん、それも間違いじゃない。世界遺産や絶景が好きだし、それを写真に収めたい。何よりわたしは、暇さえあれば電車の路線図や世界地図を指でなぞっているような人間だ。地球の裏側だって、自分の足で行ってみ

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忘れ得ぬあの人の言葉

忘れ得ぬあの人の言葉

「みどりが幸せになれる方法を考えるよ」

こんな、キザとも言える言葉をかけられたことが、人生で一度だけある。

今思い返しても、あの人との関係が恋だったのか、友情だったのかはわからない。
何歳か年上のあの人は、優しさを隠すために、自己中なフリをする不器用な人だった。猪突猛進に進みながらも後ろを振り返ってくれるから、兄のように思っていたのかもしれない。もしかしたらあの人にとっても、わたしは妹だった

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