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30秒で読める小説 / 古今東西の「愛してる」

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古今東西の「愛してる」シリーズをまとめています。
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#恋愛

古今東西の「愛してる」:小学生

古今東西の「愛してる」:小学生

小学生の頃は、
足が速いだとか、
勉強ができるだとか、
おもしろいってだけで、
その人の事を好きになれたのに。

一体いつから、こんなに難しいものに変わっちゃったんだろう。

近所迷惑になるぐらいの口論を終えた部屋には、彼が倒したグラスの破片が光っている。

「愛してる。」が欲しかっただけなのに。

===後記===

恋愛はいつから、難しくなっていくのだろう。

古今東西の「愛してる」:対極

古今東西の「愛してる」:対極

「何だ起きてたの」

深夜2時、妻が帰ってきた。

「うん。」
「シャワー入ってくるね」

お湯が出る音を聞きながら、
気づいたときには妻の携帯を握りしめていた。

「今日はありがとう。」
「愛してる。」
「僕も。」

画面に映る知らない男とのやり取り。
こんなにも苦しくなる、愛の交換があるんだな。

===後記===

愛をささやきあうのは、とても美しいものだと思えたりするけど、真逆に位置する意

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古今東西の「愛してる」:2114年

古今東西の「愛してる」:2114年

夜ベッドに入り、枕元にあるスイッチを押すと、目の前に半透明の画面が現れる。

彼の名前に触れて数秒。

頭の中に、彼の声が現れる。

「...おはよう」
「何いってんの、もう夜よ」

なんて、いつものやり取りが始まる。

「愛してる」
「私もよ。それじゃあ、おやすみなさい」

一日の中で、この時間が一番だ。

===後記===
手紙がメールに変わり、メールがLINEに変わったように、想いを伝え

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古今東西の「愛してる」:筆談

古今東西の「愛してる」:筆談

どんどん便利になっていく。
彼女もそう思っているはずだ。

僕らの会話はいつも、携帯のメモ帳で繰り広げられる。
僕が入力し、彼女が入力し、二人で読んで笑う。
それをお風呂でもできるんだから、幸せ以外の何物でもない。

「愛してる」

寝る前に見せてきたその4文字は、
なんだか照れてるようにも見えた。

===後記===

「時代は5G」だとか「AI」だとか、どんどんテクノロジーは進化していくみたい

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古今東西の「愛してる」:ファッション

古今東西の「愛してる」:ファッション

多分、私は、他の人に比べて、容姿が良いのだろう。

これまでの人生で、男性に困ったことはない。

いつも誰かしらに言い寄られる。

矢継ぎ早に飛んでくる「愛してる」の全てに、

付き合うのも疲れてしまった。

洋服みたいに日替わりのこれは、

愛なのだろうか。

===

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古今東西の「愛してる」:信号

古今東西の「愛してる」:信号

親友の結婚式の二次会終わり。

人もまばらになったアスファルトの上、
後ろから声をかけてきたのは昔の恋人。

目の前の歩行者信号が点滅する。
まるで、私の心臓のようなリズムで。

10年前の帰り道、上京を切り出された
鈍色の情景がフラッシュバックする。

「愛してる」

信号が赤に変わる。

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古今東西の「愛してる」:灰色

古今東西の「愛してる」:灰色

愛は国境を超える、と誰かが言った。
でも、それは恵まれた人のセリフだと思う。

高さ10mはあるこの固い灰色は、川下にあるダムのように、私たちの想いを堰き止める。

看守の目を盗んで投げ込まれる、
「愛してる」
の走り書き。

声しか知らないあの人に、応えられる日は来るのだろうか。

===後記===

日本という島国に生まれたためリアリティが無いが、海外に行くと「国境」の存在を感じる。
古くはベ

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古今東西の愛してる:出会い方

古今東西の愛してる:出会い方

たとえば。

朝、曲がり角でぶつかった人。
本を取ろうとして、偶然手が触れた人。
交通事故から間一髪、助けてくれた人。

運命の出会いはいつも突然だ。
誰しもが、そんな宝くじに当たるような奇跡を
期待しながら生きてるはず。

それならば、マッチングアプリで会ったこの人が言ってる

「愛してる」

は、一体?

古今東西の愛してる:馴れ初め

古今東西の愛してる:馴れ初め

日曜日の昼下がり。

「お母さん」

「なに?」

「なんでお父さんと結婚したの?」

「なによ突然」

「いや、なんか気になって」

「なんだったかしら。忘れちゃった」

「え、忘れちゃうの?」

「大事なのは今なのよ」

「またはぐらかす」

「でも愛してるから」

窓からは、柔らかい陽の光が差し込んでいる。

===後記===

大切なのは、過去ではなく、今であり、これからであり、未来。

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古今東西の「愛してる」:レジ

古今東西の「愛してる」:レジ

こんなことある?

この春、私は生活を変えた。

新しい職場、新しい家に、胸が勝手に踊っている。

そして今、最寄りのコンビニに行ったら、レジに元カレが立っていた。

私だけが気付いている、一方通行の戸惑い。

「愛してる」

と言ってくれた時の、朱く染まる波の音と、

私の晩ご飯を読み取る音が交錯する。

===後記===

人と人は、いつどこで会うかがわからない。

いい出会いもあれば、思いが

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古今東西の「愛してる」:下手

古今東西の「愛してる」:下手

恋に上手いも下手も無いと思うが、私の彼氏は、恋愛下手だ。

お店だって予約してくれないし、約束や時間にだってルーズ。

自分勝手でワガママで。

でも毎晩寝る前に「愛してる」って言ってくれるだけで、モヤモヤしていた昼間の感情もアイスキャンディーのように溶けていく。

私も、下手なのかもなぁ。
===後記===
何事にも、上手いとか下手とか、そういう判断軸は使われる。

それがどんなジャンルであろう

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古今東西の「愛してる」:脅威

古今東西の「愛してる」:脅威

その日、世界は衝撃を受けた。

日本を襲った未曾有の大災害。

自然の脅威に為す術のない人々の様子が、電波に乗って数億人の元へ届けられる。

崩れたビルの傍らで、泣き叫ぶ少女と、瓦礫に埋もれ動けない父。

「愛してる。」

諦めと愛情が入り混じったその表情と言葉は、国境と時代を越えていく。

===後記===

私たち人間は、生まれた瞬間から自然災害の脅威に襲われる可能性をはらんでいる。

特に日

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古今東西の「愛してる」:真剣勝負

古今東西の「愛してる」:真剣勝負

恋愛とは常に1対1である。

相手との真剣勝負、油断は許されない。

気を抜けばそっぽを向かれる。

外野、ギャラリーはもちろんいる。

野次も飛び交うだろう。

でもそれはあくまでリングの外での出来事。

勝負はここで起きているのだ。

渾身の「愛してる」が、空を切ること無く、相手の心を掴み続けるまで。

古今東西の「愛してる」:ビサイド

古今東西の「愛してる」:ビサイド

僕が言葉を喋れたら。

何度そう思ったことだろう。

生まれたばかりの頃、泣き止まないキミのために呼ばれたんだ。

初めて1人で寝る夜も、友達と喧嘩した日も、お母さんに怒られた時も。

キミは僕を隣において、話をしてくれたね。

僕が言葉を喋れたら

「愛してる」

って言うのに。

人形のくせして欲張りかな。

===後記===

「八百万の神」じゃないけど、生き物じゃないものにも感情があるので

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