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安藤むるめ
2020年4月28日 22:53
■機械[読]きかい機の械[例文]左手の中指に爪のない友人がいた。幼い頃に布を編む機械に指を巻き込まれて以来、爪が生えてこないのだという。彼の家の敷地には2つ並んだ工場があり、そのうちの一つで事故が起きたらしい。サッカースクールの始まる前の時間をこの家で過ごしていた私たちに「工場には立ち入らないように」と彼の親は厳しく言いつけていた。工場が休みの日に一度だけ中に忍び込んだことが
2020年4月23日 23:56
■夢中[読]むちゅう夢の中へ[例文]湿気に曇った鏡が冷まされて、次第にくっきりと輪郭を写すように自分の立ち位置がはっきり見えるようになってくる。それは、ある一つの特技について上達すればするほど「私ってこういうものだ」という、開き直りにも似た、ある基準を持ち合わせていくことに似ている。他人を見ていて、くっきり上下の差がわかった気になるのは、努力して手に入りそうか、そうでないか
2020年4月22日 18:34
■硝子[読]がらす硝の子[例文]ささいな一言が誰かの心を砕いたときみたいな「カシャアン」というガラスの割れる音が私たちの血の気を引かせた。壁あてをしているとボールが塀を超えることがあって、運が悪いと工場の薄い窓ガラスに当たるのだ。ガラスが割れる度に工場のおばちゃんがやってきて、私たちの親と話し合っていた。おばちゃんは私たちに壁あてを止めろとは言わなかったし、親も叱ったりしなか
2020年4月21日 23:51
■執拗[読]しつよう執に拗[例文]繕いの手をつけていないところはない、というくらい朽損した平屋建ての工場には1.6mくらいの高さの塀があった。近所の子供にとってはこの160cmに身長が届くか届かないかで、大人のようか、そうでないかというのが決まった。それに男にとって、デカイというのは、とにかく大切な意味を持つことだった。当時、この壁に顎を突き出して背の高さを競うのと同じように
2020年4月20日 23:44
■指針[読]ししん指の針[例文]柔らかい布を縫い合わせる針のようにスイスイと淀みなく動きまわる少年だった。彼はボールを蹴っている時にはいつも笑っていて、年少のチビが彼のボールをとりに行くと、わざと取れそうなところにボールを置いて、その子が足を伸ばしたところでボールを引き、小さい足を空振りさせた。同年代の子を二、三人と置き去りにしてドリブルで抜いた時には、楽しくて仕方ないとい
2020年4月19日 18:13
■手紙[読]てがみ手の紙[例文]父は私が6歳の時に一軒家を建てた。書き出す前の手紙みたいに真っ白な家で、近くには平屋建ての工場と桜並木の美しい公園があった。同年代の子供が近所で遊んでいた。公園に集まって私を歓迎してくれた彼らは、パッパッパとチームに分かれてサッカーをはじめた。私もその輪の中に入った。「たか!パス」「たか!こっち!」最初から全員が私の名前を呼んでくれた。名
2020年3月31日 12:00
■照射[読]しょうしゃ照り射す[例文]ボールは子供たちに転がされるがまま砂のコートをあっちにいったりこっちにいったりしていた。グラウンドの奥の方で陽炎がたち白い鉄の棒でできたゴールマウスがゆらゆら揺れているように見えた。炎天下で遠くに見える海から湯気が立っていた。よくみると大きなタンカーが煙をはいていた。そのあたりの海面は塩を撒き散らしたように白くキラキラと光っていた。しばらくす