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出会い

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人と出会うと、すぐに言葉にしたくなる。この世界の何処かで出会ってくれてありがとう。
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また、ネ

また、ネ

人が交差していく。
人々と触れそうで触れない距離を保ちながら、すれ違っていく。

赤信号を待ちながら、路上ライブに目を向ける。
人が夢を追いかける姿、それを応援する人々。
歌う、見る、歌う。

今日もこうして人々の感情が揺れ動いていく。

横断歩道を渡ると、そこにもまた別の夢を追いかける人がいて、平和という夢を追いかける人もいた。

ギターを弾きながら歌う人、その横で黒に赤と緑のペンで書かれた文字

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左側の音

左側の音

左に体が傾いていく、
左手が力強く動いていく、
鍵盤を弾き、低い音が私の中心を射抜く。

私の体の中で波紋が広がって、どんどん上へと上がってきて、涙腺を刺激する。

眼の中の粘膜に、透明の水が混じっていく。

私の目の前でピアノを弾いている人は、究極の自己表現をしていた。

此処に居るんだという叫びが聞こえてくる。

ピアノの音ってこんなにも、響き渡るものだったのだと感じずにはいられなくて、

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精神を止む

精神を止む

君は、この世界に足を踏み入れる。それはもう恐る恐る。その足の先に、ガラスの破片のような物は落ちていないかと確かめながら。

裸足で、現実という名の地面を踏み締める。アスファルトの熱を足の裏に感じながら。

君は、この世界のことをよく勉強してきたみたいで、「靴を履いていないのはきっと僕だけだ」と呟いた。

でも君は、靴を履くことを選ばなかった。

ある日、人集りの中色んな靴に囲まれながら、君の素足は

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同族INTP

同族INTP

「こういうの自分で撮っててさぁ、」

この後に、続く言葉を私は知っている。
私のSNSを目の前でスクロールしながら、冷たい視線を注ぐ彼が、次に口にする言葉を。

「恥ずかしくね?」

ほら、そういうと思ったよ、と私は頬が緩んだ。

「どうでしょう?」
そうやって笑いながら、真っ白なマグカップを口元へ運ぶ。

私は彼を嫌いながら、同時に隅々まで彼の心理が手に取るように分かる。

一生懸命になることで

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偽りなき優しさ

偽りなき優しさ

黒にピンクのスライド型のガラケーを彼が手にした。

何を見せたんだっけ。
何を、彼に、見せたかったのだろうか。

真ん中の一番後ろの席にいる彼と、
その左斜め前にいる私。

その周りに居た人たちの顔を一人も思い出せないほど、私の視界を彼が占領していた。

大それた恋をしていたわけではない。
それでもこうして夢にまで出てくるのは、彼の"優しさ"があるからだ。

珍しい、"優しさ"が。

スラッとした

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数十年の窓

数十年の窓

君が見ている絶望を、抱きしめさせて。
眉を降ろして心配そうに眺める君に、「大丈夫」だと言わせて。

果てし無く長いその道を辿って、
遠くからでもよく分かる目印を並べてくるから。

途中で、はぐれてしまっても、君がひとりで
歩いていけるように。

それが、僕の役目のような気がするからさ。

その道を君が誰かと手を繋ぎながら
歩いていったってよくて、

僕はそんな光景を、絶望ではなく、希望というタイト

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走馬灯を読む

走馬灯を読む

粗く、ざらついた、心臓が動くたびに、吐血するのである。

「うん、言いたいことはわかったよ」
そんな一言と共に絶望を味わう。

だってさ、だって、私たちきっと同じようにこの世界を読んでいると思っていたよ。同じように読んでいるからこそ、同じような走馬灯すら目にするのだろうと思っていたんだ。

“わかってもらえなかったこと”というのが、私の人生にはあまりにも多くて、"わからせなきゃ"という汚い感情が自

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空白を縫う

空白を縫う

息継ぎをした瞬間に彼が口にした、「空白」という言葉が、波打つ夜。

水面を弾きながら進む石のように、言葉を放つ。そして、時に浮かび上がる点を感じながら、"今"という点を見る。

ある地点においての点は、果たしてどこの点と結ばれるのだろうか。

もしもマグカップの底と過去が繋がっていたならば、私たちはそこから過去の自分に会いに行くことを選ぶだろうか。

それとも、こうして珈琲を啜りながら見ているくら

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「楽しかった」という完結方法

「楽しかった」という完結方法

街中で聞こえてくる「かわいい」と、「楽しかった」という感情はどちらの方がより軽率なものなのだろうか。

もしかするとどちらもそうではないのかもしれない。

無意識のうちに、

素直に口から溢れでた、

温かいままの感情なのかもしれない。

「楽しかったらそれでいい」なんて言葉はとても便利であって、肯定文にだって言い訳にだって使えてしまうのだ。

「楽しい」という感情は割と手の届きやすいところにある

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桜を見て思い出すのは、きっとサンドイッチだ

桜を見て思い出すのは、きっとサンドイッチだ

お花見だなんて気分でもない時に、

桜を見ながら歩こうなんて誘いを受けた。

桜がどこに咲いているのかすら知らない私と、

このルートが綺麗なんだと率先して歩く目の前の人。

桜の景色よりも、公園で食べたサンドイッチをよく覚えている。

知らない人が犬の散歩をしながら話しかけてきて、

きっと話しかけてきた人は日本人じゃないねなんて話をした。

それ以外は何も思い出せない。

その日本人ではないで

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「俺なんかさ」の話

「俺なんかさ」の話

彼女は、事務もできて、他の仕事もなんなくこなすけど「俺なんかさ…」

君も、パソコンできるし、此処に居なくても生きていけるだろうけど「俺なんかさ…」

彼はさ、普通の仕事が本当はできるはずなんだよ。だから、どこに行っても困らないけど「俺なんかさ…」

彼は、いつもこうやって卑下し、自分のことを話してきていた。

暖かい癖に、孤独な人だと思った。

一度彼に尋ねてみたことがある。

「寂しくないです

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モドレナイ話

モドレナイ話

喉の奥に力を込めて、
込み上げてくる熱を目頭で感じ、

震える声で、

私は「もう、戻れないかもしれない」そう言った。

「戻らない」ではなく
「戻れない」と自分に甘え、理由を作り、

ああ、また、強くなりそこなってしまった、そう思った。

「こんな家捨ててしまいたい」

何度もそう思った。

「早く棺桶に入った自分を見せたい」

そんなことだって願った。

親に壊されたこの心の治し方を私はまだ知

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父親の話

父親の話

近日中に、父親のような存在の人がいなくなってしまう。

その人は実際に、家庭を持ち、「父親」という役割をこなしている。

最近、「父親の存在意義」についてという話題で話すことが多かった。

なにが正解で

なにが間違いなのか

自分の子供を想い、考えている姿を見て

そういう「お父さん」が世の中に増えれば良いな、と思いにふけた。

幼い頃、

色んな家庭を見て

酷く羨ましがった。

「お父さん」

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