精神を止む
君は、この世界に足を踏み入れる。それはもう恐る恐る。その足の先に、ガラスの破片のような物は落ちていないかと確かめながら。
裸足で、現実という名の地面を踏み締める。アスファルトの熱を足の裏に感じながら。
君は、この世界のことをよく勉強してきたみたいで、「靴を履いていないのはきっと僕だけだ」と呟いた。
でも君は、靴を履くことを選ばなかった。
ある日、人集りの中色んな靴に囲まれながら、君の素足は生きていた。
君は右と左、全く同じ重量を足にかけながら、真っ直ぐ立ち、
皆からこう言われていた。
「これ、できる?」と。
君は不思議な顔をして、
「これ」について考え、
「できる」について考え、
そして、「?」についてじっくりと考えていた。
君はその質問に答えることなく、
「あの、何でそんなこと聞くんですか?」
そう言った。
靴を履いた者たちはクスクスと笑いながら、視線を君の足に移し、ため息を少しついた。
君は不思議な顔をしたまま、均等に筋肉がついた足を動かし、そっとその場を離れて行ったのだった。
仕事帰りの人達とすれ違いながら、
スーパーの袋を両手に持つ主婦とすれ違いながら、
住宅街から香る晩御飯を想像しながら。
君はもうすでに次の世界のことを考えていて、"今日の"足を洗った。優しく。そっと、壊れないように。
足音が聞こえる。
コツコツと、レールの上を歩いているような旋律が。
おいで、と奏でられたそのメロディーを聴きながら、君は、
裸足でケーブルカーへ乗ったんだ。
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