マガジンのカバー画像

月ふたつ

36
嬉しかったこと、楽しかったこと、辛かったこと、悲しかったこと。生きてたら、みんなそれなりに何かある。それを全部ひっくるめて私という人間ができあがる。もちろん、あなたも。日常と、想…
運営しているクリエイター

#恋愛

ふたりの日々

ふたりの日々

重たい灰色の雲が空を覆っている。まさに「どんより」という表現がぴったりの景色だ。吐く息は白く、凍えそうな空気が頬に痛い。春の訪れはまだ感じられず、たまにうっすらとさす日差しは、すぐにまた分厚い雲にかき消されてしまっていた。

そんな冬空の下、私たちは近所の川沿いの遊歩道を二人並んで歩いている。手にはたくさんの食料とお酒が詰まった袋を携えながら。つないだ手はひんやりと冷たい。「寒い、寒い」と言いなが

もっとみる
時の流れ

時の流れ

ずっと待ち続けていたその時を、もう待たなくていいことへの安堵と少しの罪悪感。そんなもの、持つ必要はないのだけれど。

ずっと望んでいたその時は結局来なかった。けれどおそらくそれを上回る時に巡り会えたから、きっとこの道で合っているのだろう。

私のこころの中に、きっとずっと居続ける人。忘れることはないであろうその人。

私の時は、おそらくあの瞬間で止まってしまっていた。動いてはいけないような気もして

もっとみる
出会うことの奇跡

出会うことの奇跡

目の前に愛しい人がいる。
その人も私を想ってくれているという。

大真面目な顔をしながら「あなたが好きだ」と話すその人の、その言葉のひとつひとつは、とても率直で、あけすけで、そこにはまったく嘘が存在しなかった。私はその人を見つめながら、その嘘のない言葉が私の心のなかにまっすぐ入ってきて、そして徐々に心の内をあたためてゆくのを感じていた。

こんなふうにお互いがお互いを愛しく想いあえるということは、

もっとみる
手放すこと

手放すこと

1度知ってしまったことを、知らなかったことにはできない。

そばにいる安堵感、心地よい温もり、離れ難いあの感触。

それらすべてを、どうしても自ら手放すことができなかった。もうどうにも誤魔化しが効かないことは、明白だったけれど。それでもどうにか、この心のなかのモヤモヤをこのまま見ないふりをして、そうしていればいつかそれも霧散して消え去って、すべてはうまいこと進んでいくんじゃないかなんて思ってみたり

もっとみる
夏のせい

夏のせい

暑い。
うだるようなこの過酷な暑さに、私の頭が正常な判断をしてくれなくなった。まるで熱に浮かされたように。

あまりに久しぶりのそれは、思っていたよりとても素敵なことだった。

もうあの人に対しての罪悪感も感じなかった。
それくらいには時間は経ったのだと、実感した。
もともと罪悪感を感じる必要性など、なかったのだけれど。

あたたかさに、心から安堵した。
そのあたたかさは、私の中のずっと頑なに閉じ

もっとみる

愛を知った日

一緒に毛布にくるまりながら映画を見た。
君は途中で寝てしまったけど。
そんなきみの寝顔を見ていたら、なぜだか妙に安心したのを覚えている。

なんだか、もうずっと前からこれが日常だったみたいに。そうして2人で過ごすことが当たり前みたいに思えたのだ。

いま思い返すと、あれがすべての始まりだった。

あの時の光景を思い出そうとすると、いつだって、まるで世界が突如として煌めきを放ったように、あの場面がキ

もっとみる

愛してるって、どんなふうに?

わからないよ、そんなこと。

君は時にカッコいいし、時にかわいいし、時に情けないし、時に弱っちいし、時に情熱的だし、時にセンシティブだし、時に大人の男性だし、時に無邪気なクソガキだし。

愛おしい気持ちが大きい分、嫌いなところもけっこうある。

そんなの受け入れられない!って思う。

でもなぜか最終的には、そのすべてをひっくるめて愛おしく感じる。

君の存在そのものが愛おしい。

頭が狂ったのかも

もっとみる

いまだ再びの愛を知らず。

「そんなに好きじゃなかったから、付き合い続けたいかよくわからない。」

これが、人生で唯一生涯を共にしたいと願った男性に言われた一言。

私が彼の親友と揉めて、迷惑をかけたから別れてもいいよ、と話した直後の一言。

別れてもいいよ、なんて言葉を放った私が悪い。

だって本当は期待していたのだから。「別れない」という言葉を。

寄りかかってはいけないとわかりながらも、生まれて初めて感じた愛情に浮かれ

もっとみる