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不定期連載「しりとりエッセイ」

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2024年、中島らも没後20年ということで勝手に捧げるオマージュ。らもさんの著作の一つである「しりとりえっせい」の真似です。
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20.霊感

20.霊感

 本来であれば目に見えないものが視えるとか金縛りや心霊写真は、霊感モノとしてよく語られているのではないだろうか。
 視える話はこれまでにも書いてきたような気がするので、別の体験談をひとつ。この話を文字にするのは初めてである。

 たしか高校二年か三年の頃だった。午後の授業中に抗うことができないくらいの強烈な眠気に襲われ、いつの間にか机に突っ伏して眠ってしまった。
 気がつくと、ごうごうと風の音がす

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19.だじゃれ →

19.だじゃれ →

 ヘッダー画像はkazamatsuri305keimさんより拝借した「布団がふっとんだ」である。
 駄洒落というのはこのように「同じ音」あるいは「非常に似通った音」を持つ言葉をかけて遊ぶ、一種の言葉遊びで「洒落」の文化なのだ。決してオヤジギャグと言うなかれ。

 私が生まれ育ったのは冗談のかたまりのような環境だった。幼少のみぎりより家庭内や親族中からよってたかってユーモアの英才教育を受けており、中

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18.痛打 →

18.痛打 →

 ヘッダー画像は某スーパーにいる豚の置物である。食料品を買いに行ってこの尻を見ても購買意欲には影響しないが、したたかに打ち据えたいスパンキング欲が湧いてきてしまう。

 私は精神的なものも肉体的にも、受ける苦痛は一生できるだけ避けて通りたいほうだが、わざわざそれを求めるヒトもいる。しかもおカネを払ってまで。世の中にはいろんなヒトがいるものだ。
 そんな特殊なニンゲンも苦痛だけが好きなわけではなく、

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17.バケツ →

17.バケツ →

 この町に引っ越してきた当時は、近所に豆腐屋が4軒あったのだが、それから14年ほど住んでいるあいだにだんだん店が減ってしまった。

 大きなお世話かもしれないが、どの店舗も住居を兼ねた造りで家賃の心配はなさそうだった。しかし豆腐関係の商品は単価が安い。たとえば飲食店やセントラルキッチンなどと提携して数多く売れば採算はとれるだろうが、個人商店では作る量に限りがある。また、光熱費や原料の高騰も痛手であ

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16.朽ち葉 →

16.朽ち葉 →

 これを書いているのは10月1日。ことしは夏からずっと気温が高く湿気もあって、まだ9月のような季節感だ。そろそろキンモクセイの香りが漂ってきてもおかしくない時期なのに、この暑さのせいで開花がだいぶ遅れるらしい。おそらく紅葉もまだ先になるだろう。

 さて今回のタイトルとなった「朽葉(くちば)」とは、枯れ落ち葉のこと。

 私の好きな季節は秋から冬にかけて。乾いた空気に落ち葉がカサカサと音を立てたり

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15.蠟燭 →

15.蠟燭 →

 躑躅(ツツジ)や蝙蝠(コウモリ)にも似た、おどろおどろしい字面。読めそうだけど書けそうにない「ローソク」である。
  ここでは結婚疲労披露宴でのキャンドルサービスや、地球にやさしいキャンドルナイトではなく、SMプレイの話をする。

 緊縛して吊られたマゾヒストの肌に、めらめらと炎燃えさかる真っ赤なローソクを垂らしていき、ロウの固まった部分めがけて強かに鞭を打つ。弾け飛ぶ欠片───そうしたプレイは

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14.ぐんじょういろ →

14.ぐんじょういろ →

 小学校で使う水彩絵の具セットの中に、謎の色名が2つあった。件の「ぐんじょういろ」と、「ビリジアン」である。これまで見たことがない名前に若干おののき、絵の具の箱を開けるたびにこの濃紺と濃い緑の使いどころに頭を悩ませていた。

 当時、図工は悲惨なものだった。写生の時間、風景や建物を見たまま描いても「こんな色じゃなかったでしょ」などと言いがかりをつけられ、減点となる。このとき描いたのは、自宅の隣にあ

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13.ボウリング →

13.ボウリング →

 「将来なりたいもの」の一つがプロボウラーだった。気が多いため、「なりたいもの」は他にもたくさんあった。

 初めて「あれやりたい♡」となったのは幼稚園の年少頃、近所で見かけたゴミ屋さん(ごみ収集作業員)だ。そのヒトは収集場所を少しずつ移動していくパッカー車の後ろ、つまりパッカーと開いてゴミを入れていく部分の端っこに片足で乗っかって次の場所へ(ラクしながら)移動していたのだ。その姿がカッコよくて、

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12.トンボ →

12.トンボ →

 おりしも、話題となっている悠仁さまの研究にのっかるようなカタチになってしまったトンボについて。
 昆虫の種類も数々あれど、印刷物の制作に欠かせない「トンボ」もある。私は10代から印刷畑で育ったので、秋になると飛び交うトンボより先に印刷業界が思い浮かんでしまうのだ。
 最近では同人誌を作ってコミケや文学フリマに参加される方が増えて、印刷所とのやり取りも身近になってきたのではないかと思う。紙のトンボ

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11.ルーレット →

11.ルーレット →

 カジノの女王と呼ばれるルーレットは、回転する円盤に小さい玉を投げ入れて落ちる場所を当てるゲームだ。他のルーレットといえば、ロシアンルーレット。どちらにも共通するのは、裏社会の題材として登場する点か。

 とうに時効になるので白状すると、ロシアンルーレットに使うリボルバー(回転式拳銃。業界用語:レンコン)を購入したことがある。あ、ケーサツ屋さん、令状を取るのは少し待ってほしい。続きを読んでからご検

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10.プードル →

10.プードル →

 何年か前、古いオーブンレンジの操作パネルが押せなくなった。少し前からあやしかったのは、特に多用する、温め機能を指定する部分だ。
 [0分0秒]が凹んだまま、これ以上押せない状態。仕方ないので[自動あたため]+指定時間をセットしたキッチンタイマーの同時押し、という荒技を繰り出してだましだまし使っていたところ、とうとうこっちも凹んで戻らなくなってしまった。
 壊れた家電を分解して基板を撮ったり取って

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9.ランプ →

9.ランプ →

 ランプと聞いてまず思い出すのが、道路交通情報で聞いたことのある「☓☓ランプ」。その次は、牛肉の部位が思い浮かんでしまう。たびたい。
 道路のほうは、昔よくラジオのトラフィック・インフォメーションで耳にして気になっていた。斜面や傾斜路のことで、英語では「Ramp」と書くらしい。光るほうは「Lamp」。

 実はこの話のために交通情報を聴く目的で、2週間ばかりFMラジオをつけていたのだが、ぜんぜん「

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8.イマソラ →

8.イマソラ →

 「イマソラ」は主に「インスタ」で見かけることの多い「ハッシュタグ」。「」内の3つのカタカナは、いずれも新しいコトバだ。イマソラとは文字通り今の空で、フォトジェニックな空のヨウスを共有したいときに使う。イマソラの語感は、とてもいい。作ったヒトは、とてもセンスいい。

 こうして新しいコトバが生まれるんだなあ@さよお

 カミナリ、雲、雨、夜空、日暈(ハロ)のほかに条件が偶然重なって太陽の光が織りな

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7.偽名 →

7.偽名 →

 かつて関係者全員の本名を知らないような職場にいた。今でも末席を汚している性風俗店(SMクラブ)の話である。性風俗に限らず水商売も同じような感じだろう。
 個人情報保護方針ができてからは、町の歯医者に勤める歯科助手に名札がなかったり、名札がないと不自然で不便なコンビニや居酒屋のスタッフは、確かめたわけではないが、それこそ偽名を使っているのではないかと疑いの眼差しを向けてしまう。いずれもストーカー対

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