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02.神話の力 / ジョーゼフ・キャンベル著_210201
神話についてずっと興味を持ってきたけれど、これまで何を読んでもいつもピンとこなかった。なぜピンとこなかったのか?本書を読むとその理由がよくわかる。おそらく神話とは、理解するのではなく感じるものではないだろうか。本書の中に記されているように、それはきわめて「詩」に近いものではないだろうか。だから頭で理解しようとしても、どうしても曖昧さが居残ってしまう。たとえば、密教なども机上で理解しようとしても本質
もっとみる01.世間のひと / 鬼海弘雄著_210101
昨年亡くなられた写真家鬼海弘雄氏の写文集。 同氏にはペルソナをはじめ大判の写真集がいくつもあるが、文庫サイズの本書の写真からもその強い存在感が十二分に伝わってくる。被写体の存在が強いのか、それを凝視する写真家の洞察力が強いのか、あるいは撮影地である浅草の場の力が強いのか。おそらくそれらのすべてが写真に凝縮されているのだろう。ポートレートを一枚づつ並べたシンプルな構成であるにもかかわらず、どれほど見
もっとみる13.珈琲屋 / 大坊勝次 森光宗男著_200903
東の「大坊珈琲店」と西の「珈琲美美」。東京青山と九州博多でそれぞれ珈琲屋を営んでいた大坊氏と森光氏の対談集になる。美味しい珈琲を淹れるためにはこれだけの個の物語が横たわっているのか。上下二段組のボリュームある構成になるが、読んでいるとまるで茶道にも通じるような奥深さに強く引き込まれてしまう。極上の珈琲を求めて二人が探究熱心なのは当然だが、論理的に着地点を設けてそれに向かってゆく森光と、一つひとつ地
もっとみる12.夕べの雲 / 庄野潤三著_ 200902
作家が自身の家族の日常を綴った好著。須賀敦子が初めてイタリア語に翻訳した作品としてもよく知られた一冊だ。1960年代の作品になるが、あの頃はこうした日常の細部に目を凝らした滋味豊かな作品が数多くあった気がする。たとえば映画で言えば小津安二郎などがその筆頭になるのだろうか。とにかく自意識をどんどん肥大化させがちなSNSの言語空間に慣らされた目には、その抑制の効いた表現姿勢がとても新鮮で心地いい。作者
もっとみる11.記憶の渚にて / 白石一文著_200901
ミステリーやストーリー性で読ませる本はあまり好みではないけれど、以前からなんとなく気になっていた白石一文の作品を手に取ってみた。さすがに人気作家というだけあって、描写も構成も秀逸で破綻がない。ただ、その語り口にあまり惹き込まれるところがなかったというのが正直な感想になってしまう。これはきっと読み手側の問題であり、相性の問題なのだろう。テーマを主人公に語らせるのであればそこに作者の内的必然性をもっと
もっとみる10.BABEL / 広川泰士著_200710
写真家広川泰士が大判カメラで撮り下ろした日本の風景。と言っても、そこに映し出されているのはいわゆる風景写真ではない。わたしたちが暮らしているこの文明社会とは何なのか、自然とどのように向き合ってきたのか、そしてどこへ向かおうとしているのか。そうした諸相が写真を通して克明に精緻に浮かび上がってくる。一見このように書くと社会派ドキュメンタリーのようにも聞こえかねないが、本書は決して声高に批判したり糾弾し
もっとみる09.夕暮の緑の光 / 野呂邦暢随筆選 岡崎武志編_200709
1980年に42歳の若さで亡くなった芥川賞作家の随筆集。最近は芥川賞を獲ってもその後が続かずに忘れ去られてゆく作家も多い中、野呂邦暢は地味ながらも根強いファンが多く、また再評価も進んでいるようだ。野呂の最大の魅力は、その端正な文体にあると言える。本書の編者である岡崎武志は、解説の中に次のように記している。「ちょっとした身辺雑記を書く場合でも、ことばを選ぶ厳しさと端正なたた住まいを感じさせる文体に揺
もっとみる08.日々の一滴 / 藤原新也著_200708
2011年の東日本大震災から2020年3月までの雑誌連載をまとめた一冊。
一編あたりが1000〜1500文字程度と短めなところに少し物足りなさを感じるが、藤原節は健在といったところか。藤原新也といえば写真と文章で時代を語るパイオニアであり、後追いとも呼べるフォロワーをこれまで数多く産み出してきた。しかし本書を読むと、やはりこの人の発想の豊かさは突出していると改めて気づかされる。いや、もしかしたらそ
07.庄野潤三の本 山の上の家 / 夏葉社_200707
こだわりのある本を丁寧に作り続けるひとり出版社「夏葉社」。作家庄野潤三については名前しか知らなかったが、「夏葉社」というその出版社の姿勢に惹かれて読んでみた。作家案内と銘打たれており、その手の本はおおむね実用書的なシンプルな作りが多いものだが、本書を手にしてまず目を奪われたのが装丁や造本の美しさだった。編集人の愛情がひしひしと伝わってくる出来というのだろうか。庄野潤三が生涯に渡って描き続けたという
もっとみる06_勇気凛凛ルリの色 / 浅田次郎著_200706
人情ものから歴史小説まで、当代随一の人気作家の初期エッセイ集。いかにも昭和のオッサンが書いた濃いエッセイが並ぶが、それにしても、わずか四半世紀前というのはこんなにおおらか時代だったのか、と改めて驚かされる。内容的にも詐欺まがいの実体験談が並ぶかと思えば、それを伝える文章表現自体も、今では差別やセクハラと糾弾されてもおかしくないようなものばかりだったりする。おそらく発表媒体が、「週刊現代」という下世
もっとみる05_なみだふるはな / 石牟礼道子 藤原新也 著_200705
水俣病の悲劇を戦後最大の文学作品「苦海浄土」に昇華させた石牟礼道子。彼女と写真家藤原新也との対談を収めたものが本書になる。話は水俣病と福島原発の類似性、つまり経済発展のために犠牲を強いる国家の欺瞞についてが語られてゆく。しかし本書で特筆すべきは、それが論理や正邪善悪だけのステレオタイプな社会批判に堕していないところかもしれない。 石牟礼の口から語られる幼少期の水俣の描写がとにかく美しい。近代以前
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