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01.世間のひと / 鬼海弘雄著_210101

昨年亡くなられた写真家鬼海弘雄氏の写文集。 同氏にはペルソナをはじめ大判の写真集がいくつもあるが、文庫サイズの本書の写真からもその強い存在感が十二分に伝わってくる。被写体の存在が強いのか、それを凝視する写真家の洞察力が強いのか、あるいは撮影地である浅草の場の力が強いのか。おそらくそれらのすべてが写真に凝縮されているのだろう。ポートレートを一枚づつ並べたシンプルな構成であるにもかかわらず、どれほど見ていても不思議と飽きることがない。「観てくれる人の想像力だけに頼っている」。写真家がそう語る通り、まさにじっと眺めていると、被写体がそれまで辿ってきた時間や、写真家の記憶や、さらには撮影された当時の時代背景などがひしひしと迫ってくる。また、ところどころに挟み込まれた短いエッセイが実に味わい深く、まるで短編映画を見ているような瑞々しい感興を誘ってくれる。まだまだ活躍して欲しい写真家だったというほかない。 

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