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240217_岡倉天心とインド / 外川昌彦

岡倉天心とインドと題してあるが、内容はインド宗教改革運動の騎手であったヴィヴェカーナンダと岡倉の邂逅を通して、アジアとは何か、を真摯に問う作品になっている。ガンダーラ美術やインドの彫刻は本当にギリシャの影響を受けているのか。あるいは、インドの起源はアーリア人の侵入によって成立しているのか。これまで常識として認識していた事柄が、本書を読み進めてゆくうちに次々に覆されてゆく。資料を丹念に紐解いて二人の思想や歴史認識を浮かびあげてゆくさまは見事だ。
基本的に学究的な立ち位置を貫いているが、本書を締め括る最後の言葉に著者の祈りのようなものが感じられて胸をうつ。
『岡倉が越えた「ルビコン河」は、その意味では、西洋のオリエンタリズム的まなざしに閉ざされた「日本」を越えた、インドやその他の多様なアジアという、未知の豊かな領野を切り開く地平であったといえるだろう。』
これは政治思想家丸山眞男が、岡倉天心の「アジアは一つ」という思想はナショナリズム的飛躍として「ルビコン河」を渡っている、と指摘したことに対するいわば返答となっている。岡倉も著者もインドに長期滞在しその思想を深く身体化しているのに対し、丸山の分析はやや短絡的ではないか。アジアはもっと多様で可能性に満ちている。著者の願いがそこに込められているようで深い余韻を残す。


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