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05_なみだふるはな / 石牟礼道子 藤原新也 著_200705

水俣病の悲劇を戦後最大の文学作品「苦海浄土」に昇華させた石牟礼道子。彼女と写真家藤原新也との対談を収めたものが本書になる。話は水俣病と福島原発の類似性、つまり経済発展のために犠牲を強いる国家の欺瞞についてが語られてゆく。しかし本書で特筆すべきは、それが論理や正邪善悪だけのステレオタイプな社会批判に堕していないところかもしれない。  石牟礼の口から語られる幼少期の水俣の描写がとにかく美しい。近代以前の神話的世界がそこにありありと立ち上がってくる。そしてそれを真っ直ぐに引き受け、自らの経験をそこに重ね合わせる藤原の語り口もまた豊かな自然との紐帯を感じさせる奥深いものになっている。失われた豊かな世界とこれからの未来。不安と希望が交錯する好著だ。

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