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高校野球 短編

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私の夏の恒例【夏の雲】1419文字#シロクマ文芸部

私の夏の恒例【夏の雲】1419文字#シロクマ文芸部

夏の雲は、まるで増殖するかの様にモクモク、モクモク湧いている。

そんな雲を見ると、私は思う。
当たり前の事だけど、

あ〜、夏が来たんだな〜って。

★★★

「さて、早く行かないとっ!」

私は、今から甲子園に行く。
と言っても、兵庫県に住む母方の祖父母の家に何日か泊まるついでに、こうして毎年甲子園に行き、高校野球を観戦しているのだ。

今年は、私の通っている高校が甲子園出場を果たし、学校の応

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決め手だったあいつ。1457文字#シロクマ文芸部

決め手だったあいつ。1457文字#シロクマ文芸部

海の日を迎えた日の事だった。

当時中学3年生だった俺は、まだ自分が進学したい高校を決めかねていた。
けれど、そろそろ決めないと受験勉強が間に合わなくなってくる。

けれど、何処の高校を見てもイマイチパッとせず、何となくボーッと過ごしてしまっていた時に、その噂は聞こえてきた。

『西蓮寺 悟(さいれんじ さとる)が公立の高幹(たかみき)商業野球部に入るらしい』

俺は小学生の頃から野球をしていて、

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手紙には、書かなかったこと。1480文字#シロクマ文芸部

手紙には、書かなかったこと。1480文字#シロクマ文芸部

手紙には、ただ一言。

『優葉(ゆうは)ありがとう。またな』

……これだけ?……なんて思わなくもないが、でも、これだけで充分なのだ。

だけど…………

「けどな〜、俺は結構な量、書いたんだけどな〜手紙。」

高校3年生の夏。
俺の所属している野球部には、いつから始まったか分からない伝統が存在している。それは、最終学年になる3年生は、部活を引退する時に、同級生の部員全員に手紙を書くという決まり事

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弾けて、こぼれて。2999文字#シロクマ文芸部

弾けて、こぼれて。2999文字#シロクマ文芸部

ラムネの音が弾けた時……

その、弾けた音は……

虚しく響くサイレンの音も、一緒に弾けさせた。

◈◈◈
「桜蔵(さくら)〜何時まで残ってんだ?早く帰ろーぜ」

「うん?もう少しだけ…」

「はあ……本当、桜蔵練習の鬼だな…」

俺は今、同級生で友人、そして野球部の名良橋 桜蔵(ならはし さくら)が、帰り支度するのを待っている。

「もう明後日決勝なんだからさ、大事を取って体休めろよ」

「う〜

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白球と風 1119文字♯シロクマ文芸部

白球と風 1119文字♯シロクマ文芸部

春と風が合わさったら、俺はあの時の事を思い出す。

高校三年間、唯一自力で掴んで出場した。
『センバツ高校野球』
春の甲子園。

野球をしてるなら、誰もが立ちたいと思う場所だと、俺は思っている。

そんな憧れの場所に立つ事が出来た俺は、グラウンドの中で一番高い場所から見える景色を見つめた。

「どうだった?甲子園のマウンドから見る景色は?」

キャッチャーの政宗が聞いてくる。

「……別に、いつも

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気になる口癖 2371文字#青ブラ文学部

気になる口癖 2371文字#青ブラ文学部

「心配いらない。投げられてるんだから大丈夫さ!」

「……………」

俺の同級生であり、野球部のマネージャーをしている雨粒 光留(あまつぶ みつる)彼の口ぐせは『投げられるんだから大丈夫』だ。

何かにつけその言葉を言う。

一投げられるんだから大丈夫一

俺を含めた部員の殆どは、何故、光留がそんな風に言うのか知らなかったが、それが光留流の励ましであると自然と認識し、それ以上誰も踏み込もうとしなか

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腐れ縁だから 1923文字#青ブラ文学部

腐れ縁だから 1923文字#青ブラ文学部

「まさ〜、今、達樹(たつき)の機嫌っていい方?悪い方?」

まただ。

「あっ?………………良いんじゃね?」

「そっか!ありがと!」

「〜〜〜っ!!!俺を介して達樹の事を聞くなーーーー!!」

何でこうなんだ。

「まあまあ、そんな怒らないで。
これでいちいち目くじら立ててたら疲れるよ?」

「疲れたとしてもっ、俺には死活問題なんだよっ!何で皆して達樹の事を俺に聞いてくんだよ!?!本人に聞けば

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1滴、貰います 995文字#新色できました

1滴、貰います 995文字#新色できました

僕がしている仕事は、少し…嫌、だいぶ変わっている。一年中割と忙しい仕事ではあるが、1番忙しくなるのが夏だ。

毎年夏になると、社員は皆大きい鞄を持参し、鞄いっぱいに試験管と危険ではない特殊な液体を詰める。

そしてパソコンやスマホを取り出し、各々が担当する事になっている会場へと出発していく。

今回の僕の担当は、野球場。

甲子園をかけた戦いが行われている場所だ。

「毎年のことながら、何だか複雑

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可か不可かでもない、ただの言葉(祈りの雨)#青ブラ文学部

可か不可かでもない、ただの言葉(祈りの雨)#青ブラ文学部

今から大雨が降ってくれないだろうか。

今から大雨が降れば、試合は一旦中止か、中止になって、やり直しになる。

やり直しになるって言っても、試合は継続されているから、スコアは今日の今のままのスコアで、試合が再開される訳だけれど……。

それでも、雨を願わずにはいられなかった。

………けれど結局、祈りの雨は届かなくて、空はピーカン…。

ピンチだ。

非常にピンチだ。

ノーアウト、ランナー1、3

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引き寄せろ、流れ!742文字 #シロクマ文芸部

引き寄せろ、流れ!742文字 #シロクマ文芸部

変わる時は、一瞬だ。

今までこちらに吹いていた向かい風が、ある一つのプレーによって追い風に変わったり、今まで吹いていた追い風が、相手の好プレーで一気に向かい風に変わったり…。

流れ、という目に見えないものでありながら、確かに存在し、その後の勝敗を左右する…。

俺達は、そんな流れを掴もうともがき、
流れを流さないように抗う。

肌で感じる流れだから、囚われ、従順になる。

⚾⚾⚾
「流れ変わっ

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始まりの言葉1370文字#シロクマ文芸部

始まりの言葉1370文字#シロクマ文芸部

始まりは、君だった。

⚾⚾⚾
「灰崎(はいざき)〜!ランニング終わったか〜?」

野球部キャプテンの大貴(だいき)が尋ねる。

「うん。終わった〜」

「俺、監督に呼ばれてるからさ、先に少し休憩して、その後バッティング練習に混ぜてもらってて〜!!」

「わかった」

俺は灰崎拓海(はいざき たくみ)
この高校の野球部で、投手をしている。
元々は野球部がなかったからこの高校を選んだものの、入学した

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あの日、触れた手のひら(手のひらの恋)#青ブラ文学部

あの日、触れた手のひら(手のひらの恋)#青ブラ文学部

『手のひらの恋』というほど大袈裟なものではないけれど、俺はバッテリーを組んでいる灰崎(はいざき)の手に始めて触れた時の事を、今でもたまに思い出す。

◈◈◈
「大ー!灰崎がマウンドで待ってんぞー!」

「はーいっ!すぐ行く!」

俺は大崎大貴(おおさき だいき)高校の部活では、野球部に所属している。
ここの野球部は俺達の代から復部された野球で今は2年目。
ポジションはキャッチャーで一年生の頃から主

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