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短編

25
まとまりのない言葉たち。
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#言葉

秋

夏がいつの間にやら去っていた。
秋はすぐそこってよりかは、
もうそこに、いつの間にか在った。

ちょっぴり寒いだけの夜に、
大好きだったあの人はいない。
涼しそうな風鈴の音は
誰にも必要とされてなくて、
まるでわたしみたい。

おしゃれをしたって、
秋色の爪にしたって、
髪型を変えたって、
好きな人ができたって、

大好きだったあの人には
関係ない話。

あなたが良いと言ってくれた花も
もう枯れて

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ごみの日

ごみの日

懐かしい匂いが通り過ぎる。

23歳になって17日が経った。

煙に巻かれた人生の右端で煙草に火を付ける。

ゆらゆら落ちていく現実と灰が革靴を汚したもんだから、舌打ちをして泣いてみたりもした。

春が迫ってくる、
大嫌いな春がじりじりと。

深呼吸、空気をいっぱい肺に取り込んだ。嫌な記憶だけがむせかえるように溢れ出た。

嫌いな人参、
揺れるイヤリング、
葉でいっぱいの桜、
泣き虫なあの子。

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2019年、寒い春。

2019年、寒い春。

踵を潰した。
枯れてゆく花を数えて、
公園の砂場に落ちた寂しいスコップを見つめる。
そんな人生を送っているのが主人公の僕である。

泣き腫らした目と
赤い鼻、
下を向いたまま声を殺していた彼女を
思い出すたびに心がずきずきと痛む。
それでも尚、飄々としながら息をしていた。
なかなか かさぶたにならないこの傷は、
一生治らないんだろうなと、どこかで諦めがついていたのだ。

アイスを買いにコンビニへ

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打撲citypop

打撲citypop

「シティーガールでいたいの」

ティースプーンでレモンティーを搔きまわしながら彼女は呟いた。

そう言った彼女の目は死んでいて、
揺れる目の奥に光は届かない。

気取った喫茶店で
気取ったお洋服たち、
気取った大ぶりアクセサリーに
気取った会話。

20歳らしい青くささが愛おしい。

「へぇ、どうしてなの?」

くだらない返事をしてみたのは同い年の僕だった。

「特に理由はないのよ」

僕の目を睨

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擦過傷

擦過傷

最終電車に飛び乗った。

行き先なんて決めていない。

残金160円の小銭入れとイヤホン、それから携帯。

どこにも行きたくない一心で
どこかへ向かった。

あの人になりたい、
あの人みたいに愛されたい、
あの人あの人あの人。あの人。

そんなあの人が泣いていたのだ。

衝撃だった。僕の人生はそこで終わった気がした。

失くしたものは1つもない。

でも、手に入れたものも1つもない。

プラスもマ

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潰散、

潰散、

涸渇した。
床には1本120円の発泡酒の空き缶、ちらし、枯れたサボテン。虚しい夕焼け。

「殺してくれよ。」

ゆれる電気の紐に向かってそう言った。
言ってみたのはいいものの、うんともすんとも言わない。

こんな細い紐じゃ首もつることができないなぁ
と考えながら脈をはかる。正常。

水道が止められた。

本当に涸渇してしまった。
僕の人生は終わりだ。
ジャンプに挟まってた宝くじが一等だったとかそん

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絡、

絡、

冷たい風が頬を掠る。

2018年、僕はまだ子どもだった。

世間は平成最後だと騒いでいたけれど、
僕はそれどころではなかったのだ。

側溝に溜まる腐った落ち葉と言葉、
アスファルトに染みを遺す涙。
どれもこれも邪魔で仕方がなかった。

鼻を赤くしながら恋人を待つ女の子、
急ぎ足で改札を通り抜けるサラリーマン、
鳩にパンをあげる浮浪者、
みんながみんな生きているだけだった。
それでも幸せそうで、

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ショートケーキ

ショートケーキ

ゆれる、

スカート 心 鼓膜 空気

さける、

人 関係 痛み 傷

手のひらからこぼれおちた物は
何一つ覚えていない。

私はショートケーキの苺に執着するような子どもだった。

一番最後に食べる、とお皿の端に大事に大事に取っておくのがお決まり。

その性格が悪化した。
末期、
もう治らない病気のように体の中で悪性のそれが派生していたのだ。
まるでお風呂のカビのようにこびりついて、どんな薬も

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