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「落日」を読んで 1

なんとなく、本当になんとなくだけど自分の心の中に「憂鬱」という感情が着実に積み上がってきているような気がする。もちろん原因は明確なのだが(感情は曖昧なのに原因が明確というのは矛盾しているかも)、その感情をどう無くせば良いのか正直よく分からない。今のコロナ禍という状況でどうしても今を生きている自分のことより明日明後日よりもっと先のことをなんだか危惧してしまうんだよね。

もっともっと強い人になりたい。
ここでの「強い」人というのは、「辛い時でも笑顔でいられる」人のことである。


🔁


今日は湊かなえさんの「落日」というミステリーを読んだ感想を書く。この本は「イヤミス」ではなく、謎に隠された事実がスーッと明らかになる 後味は決して悪くはないミステリーだ。ただ悲しい気持ちになることは間違いないけれど。

残念なのは最後が本当に駆け足すぎた....ページ数が多いわりになかなか事実が見えてこない、と思ったら最後で一気に真実が駆け抜けていったという感じがある。最後には救われるような、ほんの少し希望が持てるような気もするけれど、やっぱり「悪意」が恐ろしかった。

あらすじはこんな感じだ。(BOOKデータベースより)

新人脚本家の甲斐千尋は、新進気鋭の映画監督長谷部香から、新作の相談を受けた。『笹塚町一家殺害事件』引きこもりの男性が高校生の妹を自宅で刺殺後、放火して両親も死に至らしめた。15年前に起きた、判決も確定しているこの事件を手がけたいという。笹塚町は千尋の生まれ故郷だった。この事件を、香は何故撮りたいのか。千尋はどう向き合うのか。“真実”とは、“救い”とは、そして、“表現する”ということは。絶望の深淵を見た人々の祈りと再生の物語。

いつものように印象的な部分を書いていく。


「(略)実際に起きた事柄が事実、そこに感情が加わったものが真実だと、わたしは認識している。(略)人間の行動には必ず感情が伴っている。(略)それは、本当の真実なのかな」(長谷部香)
「本当の?」(甲斐千尋)
「事実に感情を後付けしたものじゃないか、ということ。(略)」(長谷部香)

206ページより

「この認識があってるかどうかわからないけれど」、と言いながら長谷部監督は↑のようなことを述べるわけだが、この「事実」と「真実」の違いの考え方が、なんだかわたしにはしっくりくるものだった。

人間は誰しもなんらかの感情や考えをもとにちょっとしたことから大きなことまで行動をしているわけで、誰かから 何かしらの物事について話を聴く際はどうしてもそこに誰かの「感情」が伴ってくるだろう。だからこそ そう簡単に「事実」は語られることがないような気がする。
誰もが自分が聞いた話を「真実」だと信じて、根も葉も無いような噂が広まってしまう事はよくあることなのではないかと思うのだ。


誰かが語る「真実」は、誰かによって後付けされた感情をもとに出来上がっているのかもしれない。当事者たちの目に入らないようなところで。



現在の自分を否定するのは、自分の本当の姿と向き合うためではあるけれど、どうやらわたしは、過去の自分の姿も卑しいものに書き換えているのではないか。それいいのかもしれない。自分では純粋だと思っていた姿も、誰かの目には卑しく映っていたかもしれないのだから。

131ページより

この1文だけで実感したというわけではないが、「直木賞候補となった作品」であることを実感させられるような言葉がいくつもこの本には詰まっている。

私自身も現在の自分を時には肯定して自分の精神を支え、時には自分を否定することによって自分を追い込んでいる(良い意味で)。だが過去の自分のことを自分はどう思っているだろう。
「過去のことに『反省』はしても良いけれど、『後悔』はするな。それは過去の自分を否定することになるから。」と過去に誰かに言われた記憶があって、今のその言葉が頭に残っている。
別に過去の自分を意図的に否定しようとしなくとも、自分の歩んできた道や自分のしてきた選択を悔やんだことは数え切れないほどある。過去の臆病でダメな自分が醜くて憎くて、その過去の現実を直視できなかったことさえある。
この文章を読んで、過去の自分を卑しく思うのも悪くないような気がした。「過去のあの時あの瞬間の自分の本心と向き合う」ことにつながるような気さえもしている。


1つ言えるのは、「自分を否定する」ことによって見えてくるのは "見たくなかった卑しい自分"かもしれないけれど、それこそが「本当の自分」であり、「その時直視しなければならなかったリアルの自分」なのかもしれない、ということだけである。

過去の後悔は消せないけれど、自分を見つめ直すチャンスは何度だってある。
自分と向き合おうとすることは、きっと無駄にならないはずである。





ものすごい勢いでここまで書いたが、だいたい2000字書いたら次に続くことにしている。
それではまた明日。

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