Mr.Orion

意味なんかいらない、と思いたい。少しずつ何かしら書いていく

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記事一覧

何者でもないこと、『都会』の孤独

 私は何者でもない。  うっかりいい大学を出てしまったから、身近、というほどではなくても、知り合いの知り合いくらいには、すでに「何者か」になりつつある人たちが存…

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2年前
6

自分に「死ね」と思う時、その希死念慮についての一考察

 これは自分用のメモだが、人生ハードモードというほどでもないのに自己嫌悪で希死念慮の淵をうろうろするのが日課になっており、そんな自分にまた自己嫌悪する私のような…

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3年前
3

覚え書き。シナノスイートは汁気が多めで、食べ頃だとレンチンコンポート(切ったりんごに砂糖をザラザラ乗せてシナモンをまぶし、レンジ30秒かけるだけの美味しいおやつ)はあまり向いてない。冷凍りんごを試験中。なお冷凍りんごとは、りんごを小さく切って凍らせるだけの異様に美味しいおやつ。

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3年前

深海日記 #3

 死ぬつもりで世界を眺めると、通過駅から見える雑居ビル街の看板が眩しく見える。本当に死ぬのなら愛おしくさえ思えるのだろうか。あのイトーヨーカドーに自分は二度と降…

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3年前
2

深海日記 #2

 昼の東京都内は深海には見えない。この日記のことを考えながら昼休憩のために外に出た。空色の空に赤と白のクレーンが屹立している。メモ代わりに写真を撮った。  もう…

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3年前
1

深海日記 #1

 死期を悟ったら、深海日記という名の日記を書こうと思っていた。  だが待ち望んでも、死期を悟る日は来ていない。身体はいつも何となく不調だが、別に病院に行くほどで…

Mr.Orion
4年前
3

【短編】ソープ・オペラ

 全く先の見えない就活をしていた2年前、息が詰まって確か2時間くらいで殴り書いた短編。今読み返したら当時の闇がよく出ていて、2時間もののわりには悪くなかったのでイ…

Mr.Orion
4年前
8

【日記】私を忘れた祖母が褒めてくれたこと

これはただの覚え書き。  ここには知り合いもいないし、自慢も身バレも何もないから書くけれど、私には学歴だけはそこそこある。一度言ってみたかっただけだけど。  い…

Mr.Orion
4年前

愛の話はしないで 3

 5  彼女に衆議院選に出ないかと勧めたのは、数年前に知り合った、ある野党の地方支部の者だった。  「昔、――先生ともお知り合いだったそうですね。彼女は若い頃か…

Mr.Orion
4年前
2

愛の話はしないで 2

 3  彼女の両親が亡くなったのは、それから数年後のことだった。数十年ぶりに二人で海外旅行に出た彼らは、その地で災害に巻き込まれたのだった。彼女は仕事を休み、外…

Mr.Orion
4年前
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愛の話はしないで 1

0  彼女は五歳の時、田丸君という少年に恋をした。  その恋のきっかけが何だったのか、私は最後まで知らなかった。田丸君は色が白く、眼が丸くて鼻の尖った、妖精のよ…

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4年前
5

キドニーに弔砲

 昨日の星降る夜、彼は合挽肉になった。  施設のこどもたちが彼の成れの果てのミートパイを囲んで笑う写真は、結局、彼にいちばん近しかったとされた私のもとにもメール…

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4年前

十二月の来訪

  昨夜、十二月が私の家にやってきた。 「十二月はもう終わったんですよ。とっくの昔に一月です」  私は一月のカレンダーを指して説明した。 「そのカレンダーだって昨…

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5年前
何者でもないこと、『都会』の孤独

何者でもないこと、『都会』の孤独

 私は何者でもない。
 うっかりいい大学を出てしまったから、身近、というほどではなくても、知り合いの知り合いくらいには、すでに「何者か」になりつつある人たちが存在している。そして彼らの顔は大きい。
 反して私は本当に何もない(顔は物理的に大きいけれど)。大学院を出て1年は、何者かへの道の続きを歩いていた。しばらくしてコロナ禍が始まった。関係あるのかわからないけれど、それから私は、「何者か」へつなが

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自分に「死ね」と思う時、その希死念慮についての一考察

 これは自分用のメモだが、人生ハードモードというほどでもないのに自己嫌悪で希死念慮の淵をうろうろするのが日課になっており、そんな自分にまた自己嫌悪する私のような面倒くさい人間の気休めになるとうれしいと思っている(同種のクソがいるぞ!)。希死念慮の原因が外部にある人の役には全く立たないと思うが。

 さて、今、

 とても死にたい。

 というのも、他の係の上司にだいぶマナーのなってない言動を取って

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覚え書き。シナノスイートは汁気が多めで、食べ頃だとレンチンコンポート(切ったりんごに砂糖をザラザラ乗せてシナモンをまぶし、レンジ30秒かけるだけの美味しいおやつ)はあまり向いてない。冷凍りんごを試験中。なお冷凍りんごとは、りんごを小さく切って凍らせるだけの異様に美味しいおやつ。

深海日記 #3

 死ぬつもりで世界を眺めると、通過駅から見える雑居ビル街の看板が眩しく見える。本当に死ぬのなら愛おしくさえ思えるのだろうか。あのイトーヨーカドーに自分は二度と降り立つことがない、と思えば、イトーヨーカドーは途端に人々の優しい愛と暮らしに満ちた聖域に思えるような気がする。昔アルバイトで通っていた松戸にあった、伊勢丹が潰れた時のことを思い出す。ついぞ入らなかった伊勢丹を、私はその頃少しだけ惜しんだ。

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深海日記 #2

深海日記 #2

 昼の東京都内は深海には見えない。この日記のことを考えながら昼休憩のために外に出た。空色の空に赤と白のクレーンが屹立している。メモ代わりに写真を撮った。
 もうすぐ死ぬのだと思うと公園の緑や喫茶店の看板が妙に鮮やかに目に映る。別に死ぬ予定はなくても鮮やかだと思い直す。天気がいいのだ。目に映る世界の露出が高い。
 言葉にすること、書き留めることは、そうしたものの一部を二度と自分の中に戻せなくなるとい

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深海日記 #1

 死期を悟ったら、深海日記という名の日記を書こうと思っていた。

 だが待ち望んでも、死期を悟る日は来ていない。身体はいつも何となく不調だが、別に病院に行くほどでもない。死期を悟るきっかけがないのだ。
 だから今日から書くことにした。別段、身構えたり期待したりしなくても、よく考えれば、どうせいつか死ぬのだ。今も死を前にしていると言ったって、別に間違いではない。

 なぜ深海日記という名前にしようと

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【短編】ソープ・オペラ

【短編】ソープ・オペラ

 全く先の見えない就活をしていた2年前、息が詰まって確か2時間くらいで殴り書いた短編。今読み返したら当時の闇がよく出ていて、2時間もののわりには悪くなかったのでインターネットの海に放流します。

*   *   *   *   *   *   *   *   * 

 男の手から包丁は滑り落ち、血の海になった床に音を立てて落ちた。女の身体が、柔らかな動きとともに後を追って床へ崩れ落ちるのを、彼は為

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【日記】私を忘れた祖母が褒めてくれたこと

これはただの覚え書き。

 ここには知り合いもいないし、自慢も身バレも何もないから書くけれど、私には学歴だけはそこそこある。一度言ってみたかっただけだけど。
 いわゆる高学歴女子というやつ。これも一度自分で言ってみたかっただけ。馬鹿馬鹿しいとは思う。

 「社会に出たら学歴は関係ない」という言葉があるし、学歴と頭の良さが結び付くわけでもない。学歴は生まれた環境で決まるともいう。全部そう思う。でも、

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愛の話はしないで 3

愛の話はしないで 3

 5

 彼女に衆議院選に出ないかと勧めたのは、数年前に知り合った、ある野党の地方支部の者だった。
 「昔、――先生ともお知り合いだったそうですね。彼女は若い頃から才能があったと、おっしゃっていましたよ」
 彼は、かつて彼女が慕った作家の名前を口にした。
 「ご存じなんですか」
 「我々の後援会にお名前を連ねていらっしゃいます」
 「なら、先生がご出馬すればいいのに」
 「もうお歳ですからね。それ

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愛の話はしないで 2

愛の話はしないで 2

 3

 彼女の両親が亡くなったのは、それから数年後のことだった。数十年ぶりに二人で海外旅行に出た彼らは、その地で災害に巻き込まれたのだった。彼女は仕事を休み、外国まで遺体を引き取りに行った。
 すでに荼毘に付されたその遺骨を並べて、彼女は葬儀を営んだ。彼女は遺産のほとんどを相続したが、残されたローンを返したり、葬儀代を引いたりするといくばくも残らなかった。彼女はすべてを整理すると、彼女の生まれ育

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愛の話はしないで 1

愛の話はしないで 1



 彼女は五歳の時、田丸君という少年に恋をした。
 その恋のきっかけが何だったのか、私は最後まで知らなかった。田丸君は色が白く、眼が丸くて鼻の尖った、妖精のような少年だった。彼女は幼稚園ではいつも田丸君と遊んだ。小学校に上がると別のクラスになったが、それでも彼女は機会を見つけては田丸君に話しかけた。教科書を借り、時々一緒に帰り、同じ委員会を選び、同じ課外活動を選んだ。田丸君といること、それが彼

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キドニーに弔砲

 昨日の星降る夜、彼は合挽肉になった。
 施設のこどもたちが彼の成れの果てのミートパイを囲んで笑う写真は、結局、彼にいちばん近しかったとされた私のもとにもメールで送られてきた。本文にはこうあった。「彼らはこうして、過去の無垢な頃の自分のようなこどもたちに、笑顔を届けることができたのです」
 もちろん、私はトイレでしたたかに吐いた。

 昨日はあの方の誕生日だった。休日の街はそこらじゅう飾り付けされ

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十二月の来訪

十二月の来訪

  昨夜、十二月が私の家にやってきた。

「十二月はもう終わったんですよ。とっくの昔に一月です」
 私は一月のカレンダーを指して説明した。
「そのカレンダーだって昨日慌てて掛け替えてたでしょう」
 十二月は私が恋していた人の顔をして、ゆっくりと椅子にもたれかかりながら指摘した。
「カレンダーを買うのを忘れていたからです」
「それで昨日買ったんですか?」
「ええ」
「可笑しい。とっくの昔に一月なら、

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