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死ぬとお金がかかります。2. 父がぽっくり逝きました。

2017年、初夏のある朝。
そのころ私は実家から1時間ほどの都内のマンションでひとり暮らしをし、メインの仕事は某ゲーム会社さんに派遣で入ってシナリオを書いていた。
その朝も、いつも通り起き出勤の準備をするためシャワーを浴び、ざっと化粧をしながらスマホを確認したところで、母から家族グループ宛にラインが入っていることに気がついた。

「お父さんが救急車で病院いきます」

こんな内容のたどたどしい文面だったと思う。慌てて「行った方がいい?」と送ると、しばらくして「きて」とだけ返ってきたので、ああ、深刻なんだなと察することはできた。
ただ、父は昔、くも膜下出血から無事に生還した人だったから、その時点では、まだ半分「今度も大丈夫だろう」と思ってた。けれど、あとの半分で「もしかしたら……」と言う気もしてはいた。


メインの他に個人で受けてる仕事も3つあったので、直近のものに連絡を入れて調整しながら、ゲーム会社とは反対方向の電車に乗った。案外平然としているようで、いつも3~4枚カバンに常備しているハンドタオルをひとつも持たずに出るくらいには動揺していたんだと思う。
このあと絶対「必要になる」という予感があったので、急ぎながらも寄り道をして購入。こういう「普段はしないミス」でよけいな出費がこのあとけっこう増えることになる。


病院につくとまだ開院時間になっていなかったので、裏の救命救急の入口へ向かった。入った途端に、運ばれるベッドについて歩く母の姿を見かけ……それを追って、処置室のようなところへ一緒に入る。けれど、ベッドに寝かされた父はもう、逝ってしまったあとだった。

7時36分、腹部大動脈解離

母と私に、医師から、それが告げられた。



判で押したような、規則正しい生活をする人だった。いつも母とふとんを並べて寝ていて、寝相も微動だにせずピシッとしているのに、その朝、母が目を覚ますと、うわ布団の上に真横に倒れていたという。
母は耳が聞こえにくい人なので、後々「もし、もっとはやく気がついて起きてあげられていれば……」と悔やんでいたようだけど。
腹部大動脈解離というのは、たぶんそれでも大概が一瞬で連れていかれてしまうものらしい、とあとでなんとなく知った(だから、声優の鶴ひろみさんが同じで、それでも間際に運転していた車を脇に寄せてハザードを出したと聞いて、本当に天晴れな方だなと思った)。



父は霊安室に運ばれて、私と母は遺族待合室にいるように言われ、そこへやってきたのは警察だった。


入院しててそのまま病院でというのじゃない場合、ウチみたいに家で倒れて救急車呼んで運ばれて亡くなった、って時には、不審死ではないのかを調べに警察屋さんが遺体検分と事情聴取しにやってくる

強制的に父の体は調べられ(何をされたかは見られなかった)、その間に、母と私は事情聴取を受けた。家族を亡くしたばかりのショックの中で。まあ、あっちも仕事だから仕方ないんだろうけどね。
(そのあと、母と私とで実家の現場検証も立ち会った。これも必須らしい。家の中に制服警官が4人もいる非現実。さすがにあからさまなパトカーじゃなく覆面パトできてくれたけど)
ちなみに、このときの警察屋さんへのお支払いはなにもなかった。まあ、お給料は税金から出てるのだろうけども。



しばらくして妹が姪っ子(翌日に6歳になった)と甥っ子(1歳)を連れて隣の県から駆けつけてきた。そんな精神状態での車の運転も不安だけども。
ここから、親類縁者への連絡をしなければということになったけど、私と妹で、混乱してるから、二人ともいちばん上のお兄さん(伯父)に何度もかけてしまったり。遠方に住んでいるから、電話代がかさむよね。これも「いつもならしないミス」。


事件性ナシと言うことであっさり引き上げていったけど、警察のあとは葬儀屋をさっさと決めろと迫られる。病院も、いつまでも置いとけないからね。
朝一で運ばれて、夕方前には病院を出されてた。

葬儀屋は本当に、事前に決めておいた方がいい。でなければ、そこの病院と提携の葬儀社を勧められる。そこが、良識のある葬儀屋ならいいけど。
ウチが当たったところは本当に本当に本当に最悪だった。営業しなくても客に困らないからね。絶対に、二度と使わない。そんな最低なところに当たりたくなければ、決めるまでいかなくても、ためらわず連絡できるほどには目星を付けておいた方がいい。でないと、判断力を欠いて、勧められるままになっちゃうから。


ただ、病院の医師や看護師さんたちには、感謝しかない。「誰」にお世話になったのかは、わからないけど。それどころじゃなかったから。なのでみなさまに。ありがとうございました。

若い医師(たぶん研修医)とたぶん処置を受け持ってくれた若い看護師さんのふたりが、病院代表でお見送りしてくれた。シンドイ仕事だよねぇ。
救急で運ばれてきた患者を、救命処置して、看取って、遺族に説明して、霊安室と待合室使わせてお見送りして、警察に連絡やら必要書類や手続きやらのあれこれがあって、病院へのお支払いは1日で〆て約5万。
お値段はその病院と、した処置にも寄るだろうけども。「ぽっくり逝った」当日の病院代でざっとこれだけかかった。入院してたらどのくらいになってたことか。でも「入院」はしてないから、かけてた「入院保険」は下りなかった。保険てギャンブル……。。。



父は元イタリアンのシェフで、ことあるごとに料理をしては振る舞っていたんだけれども。亡くなった翌日がちょうど姪っ子の誕生日で、そのお祝いもかねて、姪っ子の運動会を見がてらの食事会を予定して献立を考え食材を買いためていた。
料理の才を受け継がなかった私たちでは、何を作ろうとしていたのか皆目分からず、たとえ分かっても到底作れず。冷蔵庫の中の食材は、だいぶ後になって「あ、こんなのあったー」と発掘されたりもした。急逝だと、こういう「知らずにムダにしちゃう物」とかもけっこう出てくるねー……。

他にも、いつも父が閉めていた高い小窓を夜中に閉めようとした母が、回転椅子を足場にして落ちてデスクの角に頭ぶつけたり(真夜中に階下から大きな音が響いて、しかもぶつけたのが頭で、本人より、こっちの方が生きた心地がしなかった)。
それに、父と救急車に乗るときに慌ててて足をぶつけていたらしく、母は打撲でしばらく通院したり、ストレスで帯状疱疹になって診察受けたりもしてたなぁ。これも「想定外のケガや病気と通院費」だった。



病院には義弟とご家族もきてくださってて。あちらのお父さんは数年前に亡くなっていて、葬儀の経験者。こういうとき、「知ってる」人に次は何を?が聞けると、けっこう心強いよ。だって、当事者は、このときだいたいショックで頭があんまり働かないし。
それもあって、これを書こうと思ったんだけどね。何がどんな感じに襲ってくるのか、なんとなくでも「知って」たら対処のしようもあるけれど。人んちの葬式周り、普通は根掘り葉掘り聴けないしねぇ。

家族が死ぬと、自分は大丈夫だと思っていたとしても、「普段と違うこと」を「普通でない精神状態のとき」にしなければならないために、いろいろ予想外のことが起こるもの。


次は葬儀周りを。




お読みいただき、ありがとうございます。
よろしければ、こちらもよろしくどーぞ。
死ぬとお金がかかります。
1. 老いた親との別れ方。
2. 父がぽっくり逝きました。
3. 葬式は、どうする?
4. 戒名って、要るの?
5. 仏壇が、ないのだよ。
6. お墓も、なかったのだよ。
7. 死後の手続き。
8. 葬式代わりのお別れ会(お手製)
9. 遺品整理も大変なのだ。
10. 死ぬと入ってくるお金。
11. 父親との最後の会話。
番外. 親友の義母の場合。


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