マガジンのカバー画像

大日本末期文学全集

1,104
終末感が滲み出る文章がまとまったら、ここに投稿します。イラストと文を合わせて一つの作品になっていることもあるので、雑誌のような感覚でお楽しみください。
運営しているクリエイター

2023年8月の記事一覧

『「それは、胡麻摺り」』

『「それは、胡麻摺り」』

「おじいちゃん、この駒は?」

「それは、胡麻摺り」

「ご?」

「ご、ま、す、り」

「どこに置いたらいいの?」

「王様の横にぴったりだよ」

「わかった、で、動き方は?」

「そこからずっと動かないよ」

「え、ずるくない?」

「そういう駒もあるんだよ」

「金将より偉いの?」

「それは時と場合によるね」

「何それ」

「そういうものなんだよ」

「動けなかったら、すぐ取られちゃう」

もっとみる
『甘枝大サーカスの大英断 ~そんなもんかねぇ!~』

『甘枝大サーカスの大英断 ~そんなもんかねぇ!~』

甘枝大サーカスが

興行をしているテントが

火の不始末によって

燃えてしまって

その原因となった

火の輪くぐりのライオンは逃げ

街なかを暴れまわっている

玉乗りのゾウも同様に

パオーンと飛出し

高速道路を封鎖しているようだ

子供たちに人気のポニーも

餌のニンジンが焼け焦げたから

あちこちの八百屋やスーパーに

出向く始末

彼らを捕まえようにも

どうにもこうにも

甘枝団長

もっとみる
『不倫割』

『不倫割』

お国のやることにしては

エラく気が利いている

政府発表を見た私は

細かい内容のチェックもそこそこに

即座に旅行サイトへアクセス

以前から気になっていた

例の旅館を予約…完了っ!

超が3つほどつく

この高級温泉宿は

ふだんの私の安月給から

さらに搾り取られた小遣いでは

一生泊まることなど

出来ないだろうと思っていた

ところが千載一遇のチャンス到来

世界中を騒がせた混乱から

もっとみる
『「|甘甘デクレッシェンド《アマデク》」の』

『「|甘甘デクレッシェンド《アマデク》」の』

ビビったビビったビビったビビった

マジかマジかマジかマジか

俺がガチのマジで推してる

「甘甘デクレッシェンド」の

ゆりんちゃんが

俺のバ先に来るって!

なんかテレビのロケで

うちの商品食べるらしい

うああああ!

店長に日付聞いたら

俺がシフト入ってない日

見に来ていいすかって聞いたら

邪魔だから来るなって

テレビ局にも

うちの本社にも

そう言われてるって

うああああ

もっとみる
『わたしってやっぱりもってるよね』

『わたしってやっぱりもってるよね』

「あぁもしもしハヅキちゃん?ボンジュール」

「もしもし、ぼんじゅーる」

「今月も良い子にしてたかな?」

「うん、こんげつもいいこにしてたよ」

「それならパパは安心だ」

「ぱぱあんしんうれしい!」

「じゃあまた来月電話するからね」

「うん!」

「良い子でいるんだよオゥルヴォワァ」

「おーるぼわ」

月に一度パパから電話があって

小さい頃のわたしは

それがすごくすごく楽しみで

もっとみる
『しだれ桜と遊園地』

『しだれ桜と遊園地』

なにもこの暑いときに

廃遊園地の解体なんてしなくていいだろと

世間はそう思うだろう

俺だってそう思う

ここがこのあとどうなるかは

俺たち末端には知らされていない

ただ解体の工期だけは

迫っているのが事実で

この遊園地は俺もよく親に連れられて

それから友達と

ことあるごとに通った思い出がある

この遊園地跡地が

どう再開発されるのか

まだ憶測の報道しかないってことは

おそら

もっとみる
『逡巡』

『逡巡』

とある田舎の道沿いに

野菜の無人販売所があって

住む人はもちろん

少し先に温泉街があるから

観光客も土産のついでに

地物の野菜を求めて行くことがある

茄子がよく売れる

きゅうりも人気で

ある朝採れたての茄子ときゅうりを

並べようと思った店主の婆さんが

きのうまでの売れ残りの茄子を

鳥がつついているのに気づいた

こんなことはよくあって

きゅうりは猪に食われているし

小屋に

もっとみる
『「三番ですかぁ?」』

『「三番ですかぁ?」』

「係長、係長」

「ん?どうしましたK田主任」

「来週のトンネル開通式なんですが」

「うん、順調かな?」

「掲示する式次第が印刷業者から届いたんです」

「お、ありがとう」

「そうじゃないんですよ係長」

「なに、問題?」

「これ、ご覧になって、三番のところ」

「あ…」

「どうしましょう?」

「どうするも何も、こんなの出せないでしょう」

「再発注させますね」

「やむない、急いで

もっとみる
『憎しみを集めて』

『憎しみを集めて』

何をやらせてもダメで

それどころかプライドだけが高く

傷つくことを恐れるあまり

他人を攻撃することで

自我を保っている男がいた

お察しのとおり

周囲の人々は皆

男のことを煙たがっている

ところが男は自分自身を

人気者だと言い聞かせ

欲望の赴くままに

放蕩の限りを尽くして

なかには愛する家族が

男によって深く深く

傷つけられたということで

強い恨みを抱えている者もいた

もっとみる
『砂漠の空堀』

『砂漠の空堀』

ほとんど砂漠と言っていいこの大地に

俺たちは延々と深い溝を掘り続ける

国の定めに反したとして捉えられた

そんな俺たちが

大嫌いな国を守るため

空堀を造るのに手を貸さなきゃならんて

徴税官吏の目を盗んで俺は

納める野菜の目方をごまかした

運悪く俺は捉えられた

村ではほぼ唯一の働き手だった俺

親は老いぼれて

妹たちは幼い

隣の家族も病人を抱えている

そのまた隣も…

しかし故

もっとみる
『なにこれといって拘りはない』

『なにこれといって拘りはない』

休日

少し遅めに目覚めた私は

真夏といえど熱いコーヒーを淹れる

なにこれといって拘りはない

豆などなんでもよい

ただの習慣だ

カラダを少し伸ばしたら

ソファに腰をおろして

読書を始める

昼間といえど本格ミステリに挑む

なにこれといって拘りはない

作品などなんでもよい

ただの習慣だ

玄関のベルが鳴る

愛人が来た

妻は出かけている

自宅だというのに私は堂々としている

もっとみる
『みんなおいでよNATUMATURI夏祭り 』

『みんなおいでよNATUMATURI夏祭り 』

晩夏です。楽しい夏祭りのポスターを見て癒されてください。

(あとがき)

いつもこの手のエクストリームチラシを作るときというのは、脳みそがぐしゃぐしゃになっているときなのですが、これをやることでけっこうリフレッシュできるんです。
こういうのって言葉を大量に使っているわりには、非言語部分の活動が多いような気がして(自分調べ)、直感的で楽しいんですよね。脳の奥の奥のほうを自分でくすぐってるような感覚

もっとみる
『連日』

『連日』

某日
連日の暑さに打ち克とうということで、四川料理の有名な店で激辛の麻婆豆腐を食べた。
辛さが通常の30倍とのことだが、毎度思う、この辛さ◯◯倍はまず基準の1がわからないのでなんとも言えない。
麻婆豆腐の味について、たぶん美味しかったのだろうけど辛すぎて味わうどころじゃなかった。
ちなみに駅から遠過ぎて熱中症になりかけた。

某日
あまりの酷暑ということで、カレーでも食べて吹き飛ばそうと考え、マス

もっとみる
『山本さんはロープウェイで通勤している。』

『山本さんはロープウェイで通勤している。』

山本さんはロープウェイで通勤している。

ご自宅兼商店が観光地の山頂にあって、ご両親が営んでいて。

だから会社勤めの山本さんご本人は、毎日ロープウェイを降りて、昇って、会社へ往復。

観光客向けの営業運転は午前8時から午後5時(冬季は4時)の間なんだけど、山本さんの通勤のために特別に朝6時40分と、だいたい夜の8時頃に貸し切り運転がされているの。

もっともこれはロープウェイのスタッフによる運行

もっとみる