『「それは、胡麻摺り」』
「おじいちゃん、この駒は?」
「それは、胡麻摺り」
「ご?」
「ご、ま、す、り」
「どこに置いたらいいの?」
「王様の横にぴったりだよ」
「わかった、で、動き方は?」
「そこからずっと動かないよ」
「え、ずるくない?」
「そういう駒もあるんだよ」
「金将より偉いの?」
「それは時と場合によるね」
「何それ」
「そういうものなんだよ」
「動けなかったら、すぐ取られちゃう」
「そうだね、すぐに相手の方に行くよ」
「かっこわるいね」
「そうだね、まねしたらダメだよ」
「うんわかった!おじいちゃんぼく王手!」
「えぇっ!?いつのまに!?」
遥かいにしえの戦乱の時代
人呼んで胡麻摺り衆と呼ばれた
一切の武力どころか
その尊厳すら放棄し
ひたすら保身のために
強き者の傍らに座していた連中が
居たとか
居ないとか
もちろん歴史書には
載っていないのだけど