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『なにこれといって拘りはない』


休日

少し遅めに目覚めた私は

真夏といえど熱いコーヒーを淹れる

なにこれといって拘りはない

豆などなんでもよい

ただの習慣だ


カラダを少し伸ばしたら

ソファに腰をおろして

読書を始める

昼間といえど本格ミステリに挑む

なにこれといって拘りはない

作品などなんでもよい

ただの習慣だ


玄関のベルが鳴る


愛人が来た

妻は出かけている


自宅だというのに私は堂々としている

なにこれといって拘りはない

どんな相手でもいい

ただの習慣だ


濃密な時間を過ごす


ひととおりコトが済んで

腹が減る


ベルが鳴らずに玄関が開く

妻が帰宅した


デパ地下で

旨そうな惣菜を見つけたといって

紙袋を両手に下げている


ベッドルームから身を乗り出した私は

半裸の状態だが

その惣菜の芳ばしさに気持ちを奪われ

そのままダイニングで割り箸を割った


あぁこれはちょうど

冷やしてあるワインに

ぴったり合いそうだぞ


さっそく開栓する

うん

やはり最高の相性だ


なにこれといって拘りはない

ただ私は

欲望に忠実なだけ


妻はまだ手洗いなどをしていて

なかなか着座しない

早く食わないとなくなってしまうぞ


あぁそうだ

クローゼットにあいつを押し込んだままだ

どうしようか

まぁ適当な頃合いで帰るだろう

こんどタクシー代でも渡せばよい


私は惣菜を頬張り

冷えたワインを飲み干す


休日とは実にいいものだな
















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