『不倫割』
お国のやることにしては
エラく気が利いている
政府発表を見た私は
細かい内容のチェックもそこそこに
即座に旅行サイトへアクセス
以前から気になっていた
例の旅館を予約…完了っ!
超が3つほどつく
この高級温泉宿は
ふだんの私の安月給から
さらに搾り取られた小遣いでは
一生泊まることなど
出来ないだろうと思っていた
ところが千載一遇のチャンス到来
世界中を騒がせた混乱から
景気をいち早く復興させるために
政府が打ちたてた施策のひとつ
不倫割
不倫中のカップルなら
定価の十分の一の価格で
宿泊できるというから
使わない手はない
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「ようこそいらっしゃいませ」
「予約している不貞田です」
「不貞田槍男様、お待ちしておりました」
「ん…」
もちろん連れてきた彼女もノリノリで
ここまでの旅路も
実に楽しいものであった
「不貞田様、割引の適用のための書類を…」
「あぁこれね、私たちの身分証明書と」
「恐れ入ります」
「それから私の住民票の写し、妻の名前もそこに」
「たしかにお預かりいたします」
「それでは不貞田様、お部屋へご案内いたします」
「よろしくたのむよ」
私も平静を装ってはいるが
もう予約したときから
楽しみで仕方がなかったし
チェックインを済ませた今
これから起こることのすべてが
あぁんもう…
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プルルル
プルルル
「もしもし」
「こちら旅館 生羽目屋でございますが」
「はぁ…」
「不貞田隙子様のお電話でしょうか?」
「えぇまぁ…」
「本日は不倫割適用の身元確認に…
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宿泊先から配偶者へ
身元確認をおこなうという旨が
どうやら施策の注意欄に
細かぁーい字で書いてあったらしい
これだからお国のやることは…
※実際の人物・団体とは一切