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【短編小説】鉦鼓【阿波しらさぎ文学賞一次落選作】
徳島の空は色が薄くて嫌いだ。
高く上がったライトフライは否応なくその色に吸い込まれ、落下地点を狂わせる。その後に続くのは保護者の悲鳴と監督の怒声で、相手チームの「回れ回れ」という言葉だけが嫌にハッキリ聞こえたのは、相手チームが一塁側ベンチを使っていたからという訳ではないだろう。
何をどうしたのか分からないまま次の打者を迎えた時に、一人だけライトにポツンと取り残された錯覚に陥る。早くこの回が終
【ショートストーリー】花も恥じらう
僕は今、危機に瀕している。
生きるか死ぬか。
いやそれ以上に厳しい状況である。
高校3年生にして人生の過渡期が、
こんなに早く訪れようとは、
予想だにしていなかった。
「トイレに行きたい」
頭に浮かぶのは純白の便器ばかりだ。
いや、この際多少汚れていてもいい。
とにかくトイレに行きたかった。
僕は今病院のベッドの上にいる。
病気というわけではない。
鼻の鼻中隔という骨が曲がって成長してしま
【ショートショート】土砂降り
ワイパーをかけても前が見えない。
ほとんど勘に頼りながら高速道路をはしる。
梅雨の豪雨がフロントガラスに滲み広がる。
「撥水かけとけばよかった」
洗車の際にまだ大丈夫とサボったツケが回ってきた。
いつでも先延ばしにする性格が、
いつでも私に暗い影を落とす。
今日も後回しにしていた資料作成をすっかり忘れていて、
部長から大目玉を食らったばかりだった。
ため息をついた。
トンネルに入りいっときの
【ショートショート】登山
「登山のなにが楽しいの?」
ぼくは頭をフル回転させた。
確かに登っている時は苦しいし、足は痛いし、汗でべちゃべちゃになるし。
なにが楽しいのだろう?
頂上で飲むコーヒーが美味しいから?
カフェでも飲めるでしょ。
登山飯が美味しいから?
時間をかけて作った料理の方が美味しいよ。
頂上の景色が綺麗だから?
スカイツリーに登ればいいよ。
登山の良さが全く思いつかない。
ジョージ・マロリーはな
【ショートストーリー】0.3歩の前進
気づけば三人で遊ぶことが多かった。
和歌山にある国立大学の教育学部で教師を目指した仲間だ。
僕と寺川は体育を専攻しており、辻内は外国語を専攻していた。
どうして仲良くなったのかは覚えていないが、暇さえあればドライブをしたり登山をしたり、夜景を見に行った。
あの日は工場夜景を見に行こうという話になって、日が沈む頃に夜景スポットになっている高台に登った。寺川と辻内は一眼レフを三脚に設置し、
【ショートショート】いつもより濃く
いつもより指先に力を込めて鉛筆を動かした。
いつもより少し濃い線が現れた。
こうして1円にもならない絵を書きながらぼんやりと遠くの山を見ている。
周囲の人たちからは、遊んでいないで早く働けと言われる。
そう言った人たちは、朝早くから満員電車に乗り、
夜遅くに不自然によじれたネクタイを揺らし帰ってくる。
こんな仕事辞めてやると愚痴をこぼしながら、
平気で人の夢を諦めさせようと、
躍起
【ショートショート】会議
「部長!
この部署はあまりにも会議が多すぎます!
毎日のように会議会議で、それに加えて取引先へのあいさつ、新規顧客獲得への営業、レポートの作成、あげればキリがないですよ!
それなのに毎日毎日何時間も会議をして、定時にあがれるはずがないじゃないですか!
定時は帰ることができる時間じゃないんですよ!
帰らなければいけない時間ですよ!
我々のことも考えてください!
あとなんなんですか定例会議って!
例