【ひとりビブリオバトル】マイス

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【ひとりビブリオバトル】マイス

絵本作家、小説家を目指すアカウント。 YouTubeで小説を紹介しています。 YouTube : https://youtube.com/@user-xv2js4bm6i

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【ショートストーリー】空の色は

小学1年生の時だったか。優しい女の先生だった。 「そらのいろは、なにいろかな?」 「あおー!」 20人の黄色い声がこだました。もちろんその中には僕もいた。 元来、真面目な性格だから。 野球部に入ってすぐに気づいた。 空は青くない。 むしろ白だ。 白い絵の具に水で溶いた水色を1滴だけ落とした。そんな色。 大嫌いな色だった。 高く上がったフライは否応なしにその空に飲み込まれ、落下地点を狂わせ、 チームメイトの落胆と、保護者の悲鳴に変わる。 大嫌いだった。野球が。 よく高

    • 【エッセイ】赤白帽のゴムはしょっぱかった

      ※本気で困っている人や診断を受けている人は以下の限りではない 最近思うこと、と言ってもここ数年思い続けているし、なんなら学生の頃は自分もそう言っていた時期があったような気がする事柄ではあるのだけれど、AD/HDやアスペルガーなどの、いわゆる発達障害を口にする人が増えたような気がしていて、しかも、そういった人たちへの配慮に言及するのではなくて、自分自身の特性として「私、発達障害だから」や「俺、AD/HDだから」などとカミングアウトする場面をよく見る気がする。 おそらくそれを

      • 【エッセイ】そんなレベルの話ではないのだ

         芸能人の合意なき性交があったのではないかと週刊誌がすっぱ抜き、連日ニュースを賑わせていた時、批判も養護も両方あったのだけど、その中で「肯定する人間はセカンドレイプをしているに等しい」という言葉を放ったタレントが「よく言った」とSNSで称賛されていた。そして一人もやもやとした感情に駆られたのだ。  もやもやした感情の原因をもじもじと考えていた。おそらく、この必殺の言葉で議論を完全に閉じてしまったことに不快感を感じたのだ。 SNSでも情報番組でも、問いに対する答えになってい

        • 【エッセイ】みんなうっすらスケベだから

           以前大学の授業で習ったことがある。220 − 年齢 = 最大心拍数 だから私はせいぜい190くらいまでしか心拍数を上げることができない。考えてみると、体を動かして筋肉を痛めつけて、イタズラに心拍数を上げる行為は死に近づいていて、死に近づけば近づくほど今生きていることを実感する。だから運動を続けているのだと思う。  最近はAIが自分の検索や視聴傾向を分析しておすすめを提示してくれるが、稀にインスタのおすすめフィードがセクシーな水着や下着姿の女性で埋まることがあり、その度にA

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        【ショートストーリー】空の色は

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          【エッセイ】好きだけど体に悪いものと嫌いだけど体にいいもの

           幼少期は好き嫌いが多く、中でもドロッとしたものが嫌いで、炊いたナスの柔らかさとか、コーンスープの溶け切っていない粉の塊がてらてらと光りながら掬い出されるとぞっとした。  しいたけは今でも嫌いで、噛み締めた時にしいたけ汁が滲み出すあの仕様とか、時に私の大好きなイカに擬態するところとか、小賢しいと思う。  食べずにいると母から「体にいいから食べな」とよく言われたが、もし私がナスやしいたけなら、「おいしいから食べな」と言われた方が絶対にうれしいし、「体にいいから食べな」は「あの人

          【エッセイ】好きだけど体に悪いものと嫌いだけど体にいいもの

          【エッセイ】散文

           耳に届くものをただ音として聞いていて、意味のある文節のまとまりと捉えることができない。今エンターキーを押す勢いが強すぎたかもしれない。思いの外大きい音が鳴ってしまった。スターバックスの長机の向かいに座る女の子は受験勉強をしているのだろうか。つい今しがたスマホを手にして何かを打ち込んでいるのはおそらく、Twitterに「前の奴エンター押すの強すぎワロ」と書き込んでいるのだろう。  勉強の邪魔をしてしまったかもしれないし、私が席を立つまで、もしくは彼女がそうするまで、彼女は私を

          【エッセイ】グラデーション

           以前、父にグラデーションブームが来た。  白から黒にグラデーションされているシャツや白から青にグラデーションされているシャツをよく着ていた。  私はファッションに疎く、オシャレとは何かと聞かれても答えられないし、色の組み合わせとか上下の素材による遊び心などは全く分からないのだけれど、父のそれをダサいと思う感覚はあって、でもこの感覚はファッションを知らないから生じることなのかもしれないと思い、もしかすると巷ではすこぶる流行っている組み合わせかもしれず、「白から青になってるな」

          【エッセイ】グラデーション

          【エッセイ】書けなくなった

           太宰治賞に応募するためにシコシコ原稿を書いているのだけども、ある瞬間から書けなくなった。正確には、文章を打ち込むことはできるのだけど、打ち込んだ文章がスクリーンセーバーのように画面の中で自由に動き回ってしまって、前後のつながりが乱れ、文章の体をなさなくなってしまった。原因は分からないのでこれがスランプかと思うようにした。  大学まで野球をしていたこともあって、それは小学校から続けていたので、12、3年野球ばかりしていたのだけれど、その間にボールを投げられなくなる友人を何人

          【エッセイ】書けなくなった

          【エッセイ】アゴンアレアミミクリイリンクスの話

          教育に関わる仕事をしていて、思うことがある。 子供と関わる姿を見てその人のセンスを感じる。 遊んでいるときの子供の表情を見てその人がどれだけ子供の心を掴んでいるのかがわかる。 センスのない人に子供は寄って行かないのだけど、この「センス」というものが厄介で、それを説明せよと言われてもなかなか難しく、というのも「センス」という一つの言葉で表される割に、それが包括する要素があまりにも多いからだ。 子供の表情を読む力、その表情を受けてアプローチを変える柔軟性と引き出しの多さ、共感、時

          【エッセイ】アゴンアレアミミクリイリンクスの話

          【エッセイ】思考は実感に勝てない話

           下手なりに文章を書いているのだけど、湯水の如くどるどる言葉が溢れてくるような天才でもなければ、言葉を扱った何かで賞を取ったこともないようなただのヒトなのであるが、一丁前に誰かの小説に半ば言いがかりのようなツッコミを入れて、あーだこーだと自慰している。  そんな私でもフレーズのようなものがふわっと浮かぶことがあり、浮かんだそれらは羽のように軽く、指先を抜けて飛んでいってしまうことも多いので必ずメモに取るようにしている。  最近は便利になったもので、携帯のメモ機能にのべつ幕な

          【エッセイ】思考は実感に勝てない話

          【エッセイ】もうカメ捨てたろかな

           日課としてランニングをしていて、ランニングといってよいのか分からないくらい短い距離をたらたら走ったり、思い立ったように負荷を上げて、心臓のドキドキを楽しんだりしている。たまに太ももの裏が「ドゥルッ」っとなり肉離れをおこすのだけど、それはまた別の機会に話す。  仕事の関係で走るのは夜になることが多く、和歌山では驚くほど街灯の少ないメインストリートが山ほどあり、基本的にそういう道は両サイドが田んぼか畑である。 その日も軽快に走っていたのだが、いかんせん暗く、頼りになるのは走る

          【エッセイ】もうカメ捨てたろかな

          【短編小説】布越しの祈り【文藝短編部門落選作】

           トワは、雨の日が好きだった。雨の日は街に人通りが少なくなり、やかましい人の声が聞こえなくなるのが好きだった。地面で爆ぜた水滴が靴にシミを作るのも、水滴が傘の上で結合し、自重に耐えられなくなって滑り落ちる様をビニール傘の内側から見ているのも好きだった。何より雨が上がり、光が差すと、いつもより景色が濃く、それが遠くの方まで続く。視界のはるか先にある山に目をやると、日頃、広葉樹の群がりが薄い膜で覆われ、灰色を纏った色をしている。イメージに近い色を検索すると、「港鼠」という色がヒッ

          【短編小説】布越しの祈り【文藝短編部門落選作】

          【エッセイ】授業参観には来ないでください

          小学校では毎年のように授業参観があって、それはいちいち記述しなくても全ての人が知っているものだから、この文を書こうか書かまいか考えているうちに数分経ってしまったので、「えーいままよ」と全てを書いてしまい、案の定よくわからない出だしになっている。 授業中の私、いや、当時を思い出して僕と書くようにしようか。 授業中の僕の姿を見られたくなかったので授業参観は嫌いだったし、親が来ていないことに泣く友達を見て、泣くほどのことかと思っていた。 というのも、家での僕と、学校での僕は違う

          【エッセイ】授業参観には来ないでください

          【短編小説】鉦鼓【阿波しらさぎ文学賞一次落選作】

           徳島の空は色が薄くて嫌いだ。  高く上がったライトフライは否応なくその色に吸い込まれ、落下地点を狂わせる。その後に続くのは保護者の悲鳴と監督の怒声で、相手チームの「回れ回れ」という言葉だけが嫌にハッキリ聞こえたのは、相手チームが一塁側ベンチを使っていたからという訳ではないだろう。  何をどうしたのか分からないまま次の打者を迎えた時に、一人だけライトにポツンと取り残された錯覚に陥る。早くこの回が終わって欲しいと思う。でも、ベンチに戻ると監督に殴られるだろうから、この回が一生続

          【短編小説】鉦鼓【阿波しらさぎ文学賞一次落選作】

          【エッセイ】トイレで落ち着かない

          以前、トイレで腰を上げたら勝手に流されて腹が立つとかなんとかいう記事を書いたことがあるのだけれど、今回も同様にトイレに対する不満を那智の滝もびっくりの水量でぶちまけたいと考えている。食事中に読まないようにしてほしいと思いながら、果たして食事中にnoteを読むような、それもこんな徒然なるままに書き散らしたエッセイを読むような物好きはいないだろうと思い直して、先ほどの警告はおそらく意味がなかっただろう、と感じる。 決して、那智の滝という神聖な場所をトイレのようだと揶揄している訳で

          【エッセイ】トイレで落ち着かない

          【エッセイ】今日の短歌 まとめ①

          1.重そうに君が背負った憂鬱の上に饅頭おひとついかが 2.雨の日の靄がかかった山肌と二日酔いの胡乱な思考 3.うっすらと切った小指の血の赤とスイカの赤が混ざって消える 4.豚肉に野菜に魚果物も腹に入れば皆同じこと 5.まどろみの中で隣のリビングのラジオMCが星を寄越した 6.女子高生くらい群れて浮遊する羽虫の会話に割って入る 7.2個上の姉の背中が遠ざかる待ってと泣いた外は快晴 8.忙しなく手足をふって落ちてゆく羽ばたかずとも飛べるというのに 最近自分自身の文

          【エッセイ】今日の短歌 まとめ①