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【エッセイ】パンツの葬式でもしようか

 パンツと言うと「下着?ズボン?」みたいな事を言われるようになったのだけど、私のような野良のおっさんが「パンツ」と言った時は確実に「下着」である。

 ファッション界隈がいたずらにズボンを「パンツ」と言い出し、しかも「パ↑ン→ツ→」の発音ではなく「パ↓ン↓ツ→」の発音で表現する。

 そんな四声の使い方は和歌山にはないから。「パ↓ン↓ツ→」など言おうものなら「お前何イキってんねん」と言われることは確実で、そう言われないために息を殺して今まで生きてきたのだから、ここで言う「パンツ」は「パ↑ン→ツ→」の方で下着なのである。

 ただ、この短時間でここまでパンツパンツと言うくらいにはパンツにこだわりがあって、このこだわりはポジティブな意味ではなく、他のものが履けないというネガティブな状況からくるこだわりであって、これがまあ、なかなか、我ながらたいへんなのである。

 私は、股下の短いパンツが履けない。

 それは、動いているときにどうしても股下がずり上がってきて股関節の辺りにダボついてくるからで、その度にズボン越しに股下をつまんで、大名行列さながら、「下に~下に~」さげようとするのだけど、周りから見るとそれはおもむろに股間をまさぐる中年の姿でしかなくおぞましい。

 だから「これだ!」と感じたパンツは5,6枚まとめて購入しローテーションを組んで使っている。
 その欠点に最近気づいたのだけど、同じパンツを均等の頻度で履いていれば、だいたい同じタイミングで破れる。

 「国破れて山河あり、城春にして草木深し」というけれど、パンツが破れても春の陽気はやってきたので、杜甫はやっぱりすごい人だと思う。

 いつも通り洗濯をして、干そうとしたときに、パンツの尻部分から、生地越しに自分の手が透けていることに気づいた。
 こんな勝負下着よろしく透けていたかとしばらく思案して彼らの寿命を理解した。

 容姿が全く同じ彼らを集め一枚ずつ見ると、大腿部の縫製部分が切れて、親指大の穴が空いていたり、化学繊維が朽ちて粉を吹いていたり、ある一つはちょうどお尻のメインステージの部分にメインステージと同じ大きさの穴が空いていた。

 そんな破れ方をするような高圧ガスを噴射した覚えはなかったが、「はじめの一歩」でコツコツボディを当てて相手を倒した回があったので、これもそういうことなのだろうと思った。

 そのロートル達を2階級特進させて引退させてやりたい気持ちはあるのだけれど、いかんせん私には彼らしかいないわけで、あの薄い一枚に、いかに安心感があるかということを再確認した。

 さっさと買えば良いだろうと思うかもしれないが、事はそう簡単ではなく、私の場合かなり吟味しなければ徒労に終わることも少なくない。

 昔、母が買ってきた「BODY WILD」のパンツは最悪だった。
 生地の通気性や軽さなど履いていないかのような履き心地を謳っていたが、なんせ股下が短く、私はそれを履いている間一生股間をまさぐっていた。

 今となって分かるのだが、私はむしろピタッと締め付けてくるような、「テコでも動きません」みたいなパンツが好きで、これはおそらく、最近、軽い掛け布団よりしっかりと重い掛け布団の方が安眠できると研究で判明したように、パンツにもそういう安心感的な何かがあると思う。

 「自然体がいい」みたいな誰かが言っていた言葉にかなり長い時間惑わされた気がする。人間の営み自体が自然からかけ離れているのだから、自然が良いなど「どの口が言ってんねん」である。

 でもそこまで行くと、それはパンツではなくスパッツなのかもしれず、実際買うときもスポーツ用品店で買うことが多い。今履いている彼らもミズノ製である。

 そしてそれらは、なかなかに値段が張るから、6着で2万円……
もう、メインステージそのままに踊り狂ってやろうか。
うっすい布がないくらいどうってこと無いだろう。

 今までしていたガスの噴射が直接パンツに付くくらいのものだ。
ここで言うパンツはズボンのことである。

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