【ショートショート】あいまいなことば
曖昧なことが嫌いだ。
何事もきっちりかっちり決めなければならない。
ツレと遊んだ時に
「何を食べたい?」
と聞いて
「なんでもいいよ。」
なんて答えが返ってこようものなら、
「じゃあその辺の草でも食べとけよ。」
っていつも返している。
何でもいいわけがない。
そんなのは生きているうちに入らない。
僕はそう思う。
「君は多趣味でいいね。僕は好きなことがないから休みは何をしたらいいのかわからないよ。何から始めればいい?」
って言ってくるやつがよくいるが、
何も考えずに惰性で生きているからそうなるんだと、出かかった言葉を抑えるのに毎回苦労する。
自分の人生に自分で色を付けないでどうする。
人に色づけられた世界で生きて、死ぬ時に胸を張って死ねるのか。
僕はそう思う。
でも君はいつも聞いてくる。
「私のどこが好き?」
って。その度に少し目を伏せて、
「いつも笑っているところとか、料理が美味しいところとか、あと、えーっと・・・」
自分が思っていることを、きっちりかっちり伝えなきゃと思うほどに、言葉は引き出しの奥の方に転がっていって、なかなか出てこなくなる。
すると君がニコニコ笑って、
「だからそんな時は、『全部好きだよ』って言えばいいんだよ。」
って。だから僕は
「全部好きだよ。」
って返す。
嬉しそうな顔で、
「珈琲入れよっか。」
って台所に行く君を見ていると、
この笑顔が見れるなら、曖昧な言葉で伝えるのも悪くない。
君がそう思わせてくれたんだ。
僕はそう思う。
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