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洋書や日本の現代小説などのブックレビュー

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洋書(英語小説)や、日本の現代小説など、フィクションの本を紹介します。
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記事一覧

『李の花は散っても』深沢潮著

朝鮮の李王朝の王世子、李垠と政略結婚させられた梨本宮方子(李方子)の実話を基にした小説。同時代を生きる同世代の庶民の女性の物語が並行して描かれる。

史実を文献から相当に読み込み、構築したと思われるフィクション。分厚い本だが一気に読める。面白かった。

絵本『あかちゃんはどうやってできるの?』

絵本『あかちゃんはどうやってできるの?』

人の「物語」が入っている卵子と精子が一つになったものが子宮で育って子どもができる、と語る、子ども向けの絵本。

作者の前書きに「性交や精子提供による人工授精、不妊治療、代理出産、養子縁組に関する情報は含まれていません」とある。

「女性が卵子を持ち、男性が精子を持つ」といった書き方はせず、「卵子も精子も子宮も、持っている人もいれば持っていない人もいる」というふうに表現しているのが本書の特徴だ。

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『星の王子さま』再々読

『星の王子さま』再々読

久々に読んだが、こんなにいい話だったのか、と思うのと同時に、メッセージが明確過ぎるとも思う。

でもストーリーの結末についてはどうだろう。王子さまに最後に起こったこと。自分の星に帰るには、地球上で死ななければならなかった?死んでほかの星に行くのだとしたら、人間の死もそんなふうに捉えられるのだろうか。地球上にいなくなっただけで、ほかの星で生きていると。

愛の物語。

サン=テグジュペリ著、内藤濯訳

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『死刑囚最後の日』ヴィクトル・ユゴー著

『死刑囚最後の日』ヴィクトル・ユゴー著

『レ・ミゼラブル』の著者が27歳のときに発表した死刑制度廃止を訴える小説。死刑が執行されるまでの数日間の死刑囚による手記・日記という体歳で語られる。

主人公は教養ある若い男性で母親と妻子がいることだけが明らかにされ、名前も罪状も記されてはいない。苦悩に満ちながらも静かに観察と思考を重ねる。

死刑の是非をめぐる論争は、19世紀フランスと今とで同じ論点も多いのか。残虐性、人権、犯罪抑止力、刑罰とし

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『うけいれるには』クララ・デュポン=モノ著、松本百合子訳

『うけいれるには』クララ・デュポン=モノ著、松本百合子訳

フランス、セヴェンヌ地方で自然に囲まれながら暮らす家族。長男、長女、そして生まれてきた「子ども」。その子どもには重い障害があった。庭の「石」を語り手として、障害のある子が生まれた家族を描く小説。

著者の実体験が基になっているらしいが、家族の名前が登場せず、「長男」「長女」「子ども」というように言及されるのは、固有性より普遍性を表現するためだろうか。各人には個性があり、類型化されているわけではない

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絵本『みにくいおひめさま』フィリス・マッギンリー著

絵本『みにくいおひめさま』フィリス・マッギンリー著

何不自由なく暮らすお姫さまの唯一の「欠点」は、「みにくい」こと。途方にくれる王さまと王妃さまのもとに、お姫さまを美しくできると言う女性が現れてーー。

「内面が大事」ということが、実際に顔を美しくするという、あまり納得できないお話。比喩と解釈すればいいのか?しかし、実際の容貌が激変したからこそ、本人も家族も結婚相手もハッピーになるという、これはルッキズムではないのか?

戯曲集『夢を見る 性をめぐる三つの物語』石原燃

戯曲集『夢を見る 性をめぐる三つの物語』石原燃

「夢を見る」(慰安婦)、「蘇る魚たち」(性暴力、児童虐待)、「彼女たちの断片」(中絶)の3つの戯曲を収録した本。

「夢を見る」は、日本人の元慰安婦を、たまたま知り合った若い世代の人物の視点から描く。

「蘇る魚たち」は、男性の大学教授による少年たちへの犯罪を、成長した被害者たちの視点から描く。

「彼女たちの断片」は、中絶する学生とそれをサポートする人々の中絶にまつわる思いや日本の中絶の実情や問

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『純粋な人間たち』モハメド・ムブガル=サール著、平野暁人訳

『純粋な人間たち』モハメド・ムブガル=サール著、平野暁人訳

セネガルで文学を教える30代の男性教員が、国中を騒がせている動画を見たことをきっかけに、国内で激しく弾劾されている同性愛の問題に向き合うことになる物語。

著者は、本書とは別の著書がフランスのゴンクール賞を受賞している。1990年セネガル生まれ、現在はフランスの博士課程に在籍中。

冒頭に引用した文章について、考えさせられる。本書には直接的に身体に加える暴力も出てくるが、ほかにもあらゆる形の「暴力

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『喜べ、幸いなる魂よ』佐藤亜紀著

『喜べ、幸いなる魂よ』佐藤亜紀著

18世紀ベルギー、フランドル地方を舞台に、商人の一家らの物語を紡ぐ小説。独身女性たちが集い働くベギン会が、その歴史を踏まえて扱われている。

ヤネケが魅力的。きょうだいのように育ったヤンを科学実験をするようにセックスに誘い、妊娠して出産後は子どもを他人に預けて、ベギン会に入り、研究に没頭して、双子の弟やヤンの名を借りて研究書を出版し、研究者らと手紙のやりとりをする。

好きな時期に好きなようにセッ

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『僕の狂ったフェミ彼女』ミン・ジヒョン著:属性のために選択が限られる世界は変わるのか?

『僕の狂ったフェミ彼女』ミン・ジヒョン著:属性のために選択が限られる世界は変わるのか?

学生時代の恋人に遠距離となって振られたことが忘れられない、結婚願望の強い30歳の男性。4年後に偶然再会した彼女は、フェミニストになっていた。交際を決めた2人だったが、互いに愛情はあるものの、考え方や振る舞いがことごとく対立し――。

韓国の小説。男性の主人公の一人称で語られる。加藤慧訳。ラストがご都合主義でないのがよかった。

フェミニズムが何なのか、私はわかってはいないと思うが、望むのは、対等な

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詩集『踊る自由』大崎清夏著

詩集『踊る自由』大崎清夏著

散文の顔をした詩も収録されている。住んだり暮らしたり働いたり散歩したりする中から生まれる言葉たち。

詩集『新しい住みか』大崎清夏著

詩集『新しい住みか』大崎清夏著

中学校の生物の授業で、先生が「石は生物だと思う?」と聞いたとき、思うと答えた生徒は自分一人だった(p. 78)、など、気になる話や言葉がある。

詩集『指差すことができない』大崎清夏著

詩集『指差すことができない』大崎清夏著

「ラ・カンパネラ」「四つの動物園の話」など、引かれる。

実際の出来事や報道から膨らませた詩もある。