マガジンのカバー画像

ショートストーリー

86
短い物語をまとめています。
運営しているクリエイター

#掌編小説

迷宮入り。

迷宮入り。

嘘しかつけない日に良い事があった。
正直に過ごそうとした日は怒られた。

嘘をついてはいけませんと教えられたけど、正直なことが良いわけではないらしい。ついていい嘘というのもあるらしい。

嘘をついて、笑って見せた。
正直に泣いた。

朝から、元気に挨拶した。
やりたくないことを断った。
みんなの話題に話を合わせた。
知らないところで起きた悲惨なニュースを消して、ゲームの続きをした。
もう会う気のな

もっとみる
〔ショートショート〕喫茶店にスプーンは必要かな

〔ショートショート〕喫茶店にスプーンは必要かな

 コーヒーゼリーの上からかけた白い生クリームソースが、スプーンの後を追って行く。「苦いのが美味しいね」なんて格好をつけたところで、本当はシロップ入りの生クリームがあるから好きなんだと、後悔した。僕は今日、初めて彼女を尾行した。

 仕事だと思っていたが平日が、急に暦通り以上の連休が取れることになった。付き合って半年の彼女と旅行にでもと思ったが、彼女の方は仕事らしい。だから、僕は以前から気になってい

もっとみる
前触れの無く、雪。

前触れの無く、雪。

雨を背負った雪が纏わりつく。
本当はゆっくり掻き回してやれば綿菓子みたいな素敵な雪ばかりができあがるというのに、急かされた空が未完成の雪ばかり降らせている。雨の重さで未完成の雪は、街を嫌な気持ちにさせるだけさせて冷たく消えた。
こんな日は思い出にすら残らないから、さらに嫌になる。園長の猫が死んだ日も、たしかこんな日だった。

原因は分からない。ただ車に轢かれただけかも知れないけど、保育園の裏口のド

もっとみる
虹のくすり

虹のくすり

「虹が出る薬があるって知ってるか?」

 そう言って、ケン君がリスみたいに目を大きくして見せるから僕もつられて笑ってしまう。ケン君はいつも僕の知らないことを教えてくれる。晴天の風の中を洗濯物が泳いでいる。そのすぐそばで、僕らはいつも2人で遊んでいた。
 港のすぐ近くにケン君の家はあった。猫が2匹いる、いかにも漁師をしているといった海と魚のにおいのする家だった。車庫のそばには、漁で使う大きな茶色い網

もっとみる
ペンシルnoチョコレート

ペンシルnoチョコレート

背伸びの上手い人たちに囲まれた幸せな時間だった。ちょっと高いところにあるものを無邪気に取る人たちだから、そこには憧れも混じった驚きがあって自分の心まで両手で掬い上げられたような感覚がしていたんだ。
そんな人たちの中で、格別に背伸びの上手かったキミに惹かれていた。

もっとみる