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koruri31
2021年7月19日 23:27
「先生、こんばんは。」彼女は今週もやってきた。黒い楽器ケースを背負い、楽譜を入れた灰色のバッグを持った女性が現れる。黒のブラウスに黒のパンツスタイルの全身真っ黒コーデに、彼女の黒髪の間から赤いイヤリングだけが目立っていた。コツコツと床を鳴らして僕に近づいてくる。今週はハイヒールの日のようだ。彼女は、レッスンに来るたびに服装の系統が違う。先週は、キャリアウーマン風のジャケットを着てい
2021年7月14日 20:17
大した能力差もない、見た目が大きく違う訳でもない、似たような色とデザインの多種多様なボールペン達が、整然と並ぶ。誰かが、気に入った!君が良い!と言ってくれるその日を夢見て、理路整然と並んでいる。素敵な出会いで、旅立っていくやつもいるし、何日も何週も何ヶ月も、在庫のやつもいる。逃げ出すこともできず、ただじっと時が過ぎていく。誰かのお迎えの手によって仲間
2021年7月10日 23:21
この世の中は、というか、インターネットの世界とかは、これはもう大海原の如く広いです。その大海の中から、この記事を偶然見つけてくれた方、ありがとうございます。私は、この世界において何の発信力もありません。これは事実。私はいわばプランクトンレベルに小さくて、いやそれよりも小さい細菌レベルかもしれない。電子顕微鏡必須。 それぐらい、ちっぽけな存在なのです。なので、私がちょっと動いたくら
2021年7月3日 00:43
赤いアンスリウムが、道で土下座をしている。きっと花束から転げ落ちたのであろう。さっきまで華やかな会場にいたのであろうその切り花は、今や新宿のアスファルトに突っ伏して、雨に打たれて、とても惨めな様子だった。雨は強い。傘をさした気まぐれな女が、モデルウォークのようにやってくる。ヒールの音がコツコツと僕の横を通り過ぎる。あまりに近くを通るので、頭に響く。体を濡らす雨の温度と、やって来